隠し階層ダンジョンⅠ
「むぅ……」
隠し階層ダンジョンの入り口。アイリスは、微妙にむくれた顔で立っていた。
「アイリス、仕方ないだろ。冒険者ギルドの申請が通るまでに時間がかかったんだからさ」
マリーがそんなアイリスの顔を後ろから両手でこねながら宥める。
ギルド前で結論を出した勇輝たちは、あの後に緊急調査の依頼をパーティとして受けることを申請した。アイリスとしては即日でも受けたい気持ちが強かったのだろうが、ギルドは他の冒険者やパーティが受ける可能性を無くすわけにはいかなかったらしい。
結果的に、勇輝たちがダンジョンに挑むことになったのは二日後であった。
(……傍から見る分には、遠足や運動会が延期になった小学生の反応と同じなんだよな)
年相応の反応を見せるアイリスを微笑ましい目で見て、勇輝は自分自身が何故か和んでいることに気付く。
(おっと、これから被害多発のダンジョンに入るんだ。気を引き締めないとな)
両手で軽く顔を叩いて表情を引き締めた勇輝は、王都を発つ前にギルドで受けた説明を思い出す。
「――新しく見つかった階層が複数ある?」
「はい。隠し階層ダンジョンと言われているように、このダンジョンには幾つもの下に向かう階段が見つかっています。それは言い換えると、その階段がある部屋自体も未発見の物が多いということです」
銀髪眼鏡の受付嬢コルンは、もはや専用受付嬢のように勇輝たちへと説明をしてくれた。実のところは、今回の緊急調査の担当がコルンであっただけである。
「何か注意点はありますか? 今回の事件とは別に」
「階段の先が二階層目とは限らないことですね。一回層目からいきなり三階層になる階段も発見されているので、魔物の強さが一気に変わることが予想されます。初めての階層に行った際には、すぐに戻れるような準備をしておくことが必要でしょう」
臭い玉や煙玉で魔物を足止めできるようにすることが必須。幸い、全員が数個ずつ所持していたので、その点は心配しなくても良かったと言える。
「今回の調査には、皆さんとは別にギルドの職員パーティも別動隊として動く予定です。何しろ、ダンジョンが広いので手分けをして探さないといけません」
差し出された地図は、隠し階層ダンジョンの大まかな道が載っていた。その内、数カ所に赤い丸と青い丸が書かれている。位置的に地図の右と左に半々ずつになっており、勇輝たちは首を傾げた。
「赤い丸を皆さんが、青い丸はギルドのパーティが調査します」
「この丸って、もしかして、今回の怪我人が出た場所ですか?」
「はい、その通りです。そして、怪我人には共通することがあります」
コルンは頭部に生えた耳を何度か動かしながら、周囲に聞こえないようにと声を潜ませた。
「泉に武器や道具を落としているんです」
「じゃあ、噂のあれは本当だったのか? 金の斧と銀の斧を差し出して来るみたいな話」
「既にそこまで知っているなら、説明が早くて済みますね。仰る通り、持ち物を落とすと水の女神と思えるような存在が、二つの斧を落とした物かと聞いて来るそうです。たとえそれが斧ではなくても」
剣や槍、杖など、怪我した人たちが落とした物はそれぞれ違うらしい。ただ、全員が正直に自分の物ではないと答えた結果、斧を振りかぶって襲ってきたという。奇しくも、全員がパーティとしてダンジョンを探索していたのに、次の階層を探そうと手分けして探していたところで起きた事件だという。
「もしかして、集団で行動していると出てこない可能性もあるって、ことですか?」
「それも含めての調査になります。もしも、それで被害が無くなるようであれば、注意喚起だけで済むかもしれません。危険と判断すれば囮作戦で、出てきたところを討伐することにもなるでしょう」
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