緊急調査隊募集Ⅶ
冒険者の怪我は自己責任的な考えがある一方で、何かあった時には助け合う風潮がある。
目の前で何かあったら助けるべきだが、既に怪我人が運び込まれて治療されている。その後、ダンジョンを封鎖したり、調査したりと責任を取るのは、勇輝としては冒険者ギルドの役目だと思っていた。
事実、冒険者ギルドは調査隊の募集と言う形で準備を進めている。そこにわざわざ自分たちが赴く必要があるのかを考えた。
「興味本位で首を突っ込んで怪我をするわけにもいかないからなぁ。まずは、ギルドが調査するって言ってるんだし、そっちに任せても良いと思うけど」
「日ノ本国と同じなら、調査隊の募集に人が集まらなかった場合は、国が支援する形になるはずだね」
勇輝の感覚としては、まず国や県といった公の側がどうにかするのが先だ。しかし、冒険者ギルドと言う国の機関とは独立している組織の都合上。民間でどうにもならなかったから国が動くという形をとっているらしい。
「――ってことは、俺たちが無理をしなくても、やるべきところがやってくれる。何だったら国の方が編成とかはしっかりしてるんじゃないか?」
「前衛に騎士、後衛に魔法使いを苦労することなく並べられるし、騎士も魔法は一通り使えるから。勇輝の言ってることは確かだな。中立のあたしが言うのもなんだけど、アイリスとソフィの理由は少し弱いと思うな」
マリーはいつになく真剣な顔で二人を――特にアイリスを見る。対して、アイリスはムッとした表情で、マリーを見返していた。
火花が散るという程ではないが、勇輝は何か起こるのではないかと不安になる。
冷たい風がそっとギルドの中へと吸い込まれていく中、マリーはアイリスへと笑いかけた。
「ちゃんと、理由があるんだろ? それを話せば、勇輝も桜もわかってくれると思うぜ」
アイリスはマリーの言葉を受けてハッとしたように見回す。
急に話を振られた勇輝であったが、自分が納得できていない原因がアイリスの口から理由を聞いていないことであると気付かされる。勇輝もまた、目を見開いてマリーを見ると、アイリスに向けたような笑顔を向けていた。
(マリーって、見てないようで見てるんだよなぁ)
ある意味、その能力は羨ましい、と感じながらも勇輝はアイリスを見て頷いた。
「オーウェンに魔法の技能で勝ちたいとか? 同じ水魔法の使い手として」
「……それも、ある」
アイリスは静かに答える。
「みんなを傷つけているのが、許せない」
「それは――水の女神様と言われる存在が、ですか?」
フランが恐る恐ると言った様子で尋ねる。天才少女と言われるアイリスが、どのような理由を持っているのか。みな、想像がつかないようで興味半分、怖さ半分と言った様子だ。
真っ赤な瞳にアイリスの鮮やかな水色の髪が映る。
「そう。ここは水の恩恵を受けて発展した国。その国の人を、水の精霊や女神が傷つけるはずが、ない」
「……もしかして、それで犯人に怒ってる?」
「怒ってる。ものすごく」
表情も口調もいつも通りの為、勇輝はわからなかったが、アイリスは今までになく激怒しているらしい。
確かに言われてみれば、普段よりも目つきが鋭い気がしなくもない。まさか、アイリスがそこまで愛国心が強いタイプだとは、勇輝は思っていなかった。
「――桜」
「わかってるよ、勇輝さん」
申し訳なさそうに勇輝が呼びかけると、桜は笑顔で手を勇輝の腕に添えた。
これで全員が揃ってダンジョンに迎えるか、と思った矢先、フランが声を上げた。
「私、水相手に大丈夫でしょうか……」
「あっ……」
真祖の吸血鬼であるフランの弱点は、魔力の枯渇による吸血衝動だ。ただ、未だにその体質の解明には至っていない。
そんな吸血鬼の弱点の一つには、流れる水を渡れないというものがある。水の都である王都で日常生活を送る分には問題はないが、水の魔法を敵意を持って使われた際に、どのようになるかは不明だ。
「ご、ごめんなさい。私はお役に立てそうにないかもです」
「そうか、それは仕方ないな……。じゃあ、せめて今日はフランとは楽しい時間を過ごすって言うことで、ダンジョンに向かうのは明日以降っていことでいいか?」
勇輝の提案にアイリスは強く頷いた。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




