ウンディーネ救出作戦Ⅳ
ユーキはダンジョンの薄暗い入り口を進んでいくと、急に開けた視界とその明るさに目を細めた。明るさに目が慣れてくると目の前に広がっていた光景にユーキは驚く。
見渡す限りの草原。所々にうろついている四足歩行の見慣れない動物たち。上を見上げれば見事なスカイブルーに綿菓子のような薄い雲がかかっていた。
「あれ? 門を抜けただけだとしても、こんな広い場所あったっけ?」
「何寝ぼけたこといってんだよ。もうここはダンジョンの中だぜ」
「え? いや、だってダンジョンだっていうならあの空は?」
ユーキが空を指差して抗議する。天上に空を投影するような魔法が掛けられた建造物が存在したとしても、あそこまで高い天井は存在していなかったはずだからだ。
ユーキは魔眼を開いてみたが、即座にその眼を閉じた。数えきれないほどの魔法陣がプラネタリウムのように光っていて、見ても到底理解できなかったからだ。そんなことをユーキがしているとも知らず、アイリスは興味深げに空を見上げる。
「ダンジョンは不思議の塊。ちょっと解体してみたい」
自分が見た魔法陣かいて見せたら、天才少女の頭脳はどんな反応をするだろうか。ユーキの中に疑問が浮かぶが、すぐにそんなことは頭の片隅へと追いやった。
アイリスが言ったことは半分冗談だろうが、フェイとしては念を押すためか真剣にアイリスへと注意をしている。
「そんなことしたら縛り首じゃ済まないから。冗談でも言わない方がいい」
ダンジョンは仮にも王家直轄、或いはそれに準ずる物として扱われている。
その理由の一つは、戦闘人員の育成。国家の成立条件は『領土』、『国民』、そして『主権』と言われている。その国民と領土を守るためにはどうしても戦力が不可欠だ。この世界では隣国だけでなく、危険なモンスターが跋扈している。そこで生き抜くためには、こういうダンジョンも必要なのだろう。
「そうだね。おまけに補充しなくてもアイテムや素材が手に入る可能性があるから、資源としてもなくすには惜しいと思うし」
サクラもフェイに賛同しながら頷く。
魔力がダンジョンを通して物質化されるのか、はたまた見えない何物かが用意しているのか。ダンジョン内で起こる補充現象は、未だに結論が出ていない。天然ダンジョンでは、特によく起こる現象ではあるが、時には魔法学園のような人工のダンジョンでも見かけられることがあるのだという。共通してモンスターだけは勝手に生み出されるのに、死体は残るので食べることには苦労しない。
いずれにせよ、国から見たら無限に湧いて出る財宝のようなものだ。捨てるには惜しいのは間違いないはずだ。
「なるほどね。仕組みはわかってなくても便利に使えるなら、そのまま使っていた方がいいもんな」
そう言いながらユーキは自分の左腕についている腕時計を見た。例えばだが、いくら便利だからと言ってユーキには時計を分解して、複製品をこの世界で売りさばこうという考えは浮かばないし、恐らくできない。安全に使う方法が確立されているなら、そのまま使っていた方が故障してしまうよりはいいだろう。
「それで、俺はダンジョン初めてなわけなんだけど、どうすればいいかな」
「そんなに気を張るなよ。まだ一階層だ。モンスターも手を出さなければ襲ってこないし、トラップもない」
「まずはどんどん下に向かって降りようぜ。階段の場所は大抵がデカい石造りの神殿みたいなところにあるから、場所がわからないときにはそれを目印にすると良いぜ」
マリーが右前方を指差すと、遥か向こうに灰色とカラフルな色が混じった建物が見えた。それだけ見ればデカい石の塊にも見えなくもないが、目を凝らすと確かにパルテノン神殿のような特徴的な柱が並んでいるように見える。
「歩いて、二十分くらい?」
「まぁ、それくらいだろうな。実際、体感での時間だからわからないけど」
ユーキは周りを見渡すと一歩前へ出る。そして、胸ポケットにしまい込んだ精霊石へと語り掛けた。
「どうだい。何か感じたりする?」
返答はノー。石の輝きは暗くなり、まるでウンディーネの落胆している気持ちを表しているようだった。
「そうか、また聞くからそれまでは休んでいてくれ」
ポケットに精霊石を仕舞い直すと、ユーキは全員に振り返って言った。
「それじゃあ、ダンジョンの話でもしながら向かおうか。まだ、俺が知らないこともたくさんあるからさ」
「そうだね。みんなで知っていることを確認していけば、あそこに辿り着くまでにはユーキさんも理解できるもんね」
「何も知らないよりは、いいと思う」
周りも頷くと次の階層への道を目指しながら歩き始める。こうしてウンディーネ救出作戦の第一歩が踏み出されると同時に、ユーキのダンジョン勉強会が始まった。
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