緊急調査隊募集Ⅴ
しばらく、ソフィを待っていると、多くの人を掻き分けながらアイリスと同じくらいの背丈の少女が向かって来た。
褐色のズボンに黒いコートと地味な雰囲気だが、銀髪がその分、明るく輝いて見える。もこもこの手袋を大きく振り、勇輝たちの元へと辿り着くと、ヒマワリのような笑顔を咲かせた。
「勇輝さんと桜さん。お久しぶりです! お元気でしたか?」
「あぁ、久しぶり。でも、そっちはなんかいろいろ大変だったみたいだな。検査尽くしで」
「そうなんですよ。毎日、朝昼晩と三回の検査。外にも出られない日が多くて窮屈・退屈・鬱屈でした」
ソフィは腰に手を当てて、怒り心頭であると言わんばかりに頬を膨らませた。せっかく、元の肉体に戻ることができたのに、以前よりも自由度が下がったのは本人としても納得がいかないのだろう。
「まぁまぁ、ルーカス学園長にとっては大切な家族なんだから、慎重になるのも仕方ないよ」
「それもそうですね。何せ、人間から精霊になって、しかも元に戻った存在ですから。そんなの世界中を探しても私一人くらいでしょうし、家族としても研究対象としても貴重でしょうね」
半分、嫌味のように言うあたり、まだ水精霊の頃の人間不信の名残が見受けられる。それでも表情は水精霊としてルーカス学園長と顔を合わせた時に比べ、非常に穏やかだ。
「まぁ、最初は大変だったよな。二人とも顔を合わせた時は互いに我慢してたけど、最終的に大声で泣き始めちゃうし」
「ちょっと、マリーちゃん。それは黙ってるって約束でしょ!」
「いやいや、勇輝たちは別だろ? ソフィがこうやって、暮らせるようになったのも勇輝たちがいたからみたいなところがあるし」
「そ、それは確かにそうだけど……」
水精霊時代も最初に助けたのは勇輝で、肉体に戻るきっかけになったのも勇輝が妖精庭園に攫われたからだ。
マリーの主張は一見間違っていないようだが、だからと言ってプライベートを本人の許可なく開示するのは、また別だろう。マリーとソフィが言い合う姿を見ながら、勇輝は実に平和だと思う反面、ソフィはこれから自分と同じようにマリーに振り回されるのだと気の毒に思った。
「で、ソフィは、今回の事件について、どう興味があるの?」
そんな中、アイリスはじっとソフィを見つめていた。頬を撫でる冷たい空気と同じか、それよりも冷たい視線を投げかけている。
振り返ったソフィはそれを受けて、きっぱりと言った。
「元水精霊として、この事件は放ってはおけない。そう思ったんです。犯人は水の女神やら精霊やらと言う噂が流れているのを魔術師ギルドで私も聞きました。正直言って、腹立たしいにもほどがあります」
憤るソフィに唖然とする勇輝だが、数秒遅れで彼女の言いたいことを何とか勇輝は理解した。
「もしかして、自分の悪口を言われている気分になるから、解決したい――みたいな?」
「端的に言えば、そういうことになります。私、結構、根に持つタイプなんですよ」
先程までは綺麗なヒマワリに感じた笑顔が、打って変わって毒々しい食虫植物か何かに思えて来た勇輝。思わず頬が引き攣る。
ただ、勇輝はこのメンバーでダンジョンに調査に行けるのか、とそれぞれの顔を見渡す。
マリーは高火力の魔法を使え、魔力制御の訓練でかなり器用になってきている。
アイリスはその魔力制御がずば抜けていて、それだけで生物相手ならば封殺できる可能性もある。
ソフィは体調面に不安があるが、水精霊であった力を活かし、アイリス同様に水魔法を扱える。
桜は、一点突破の土魔法に加え、式神や結界術も使える。
(あれ、普通に強くないか?)
前衛が勇輝一人であることを考えると、少しばかり不安は残る。だが、それを補って余りある後衛の火力。困ったら桜の魔法で壁を作り、時間を稼げば充分に戦えるだろう。
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