緊急調査隊募集Ⅳ
『その話、私も詳しく聞かせてもらっていいですか?』
ギルドを出たところでマリーの精霊石経由で、勇輝たちの脳内にソフィの声が響いた。すぐにマリーが思念を送り返したので、二人の会話が勇輝の頭の中で繰り広げられる。
(ソフィ、体は大丈夫なのか?)
『えぇ、少しばかり寒気がしただけだったんですけど、主治医とお爺様がなかなか外に出てくれることを許してくださらなくて……とりあえず、検査結果は問題なしとのことだったので、そちらに向かっています。今、冒険者ギルド前ですよね?』
(そうだけど……大丈夫なのか?)
『もちろんです。まったく、マリーちゃんは心配性なんだから』
(つい最近まで死亡扱いになってた奴が偉そうに言うな! とりあえず、入口で待ってるからな)
プツリ、と糸のような物が切れた感覚があった。恐らくは、電話で言う回線が切れた状態になったのだろう。
勇輝は邪魔にならないように脇に寄ったマリーに視線を移す。
「そういえば、死亡扱いって聞いてたけど、ソフィは俺たちが日ノ本国に向かった後どうなったんだ?」
「あぁ、そういえば、その話をしてなかったか。別に大したことはないよ。まずは血縁関係にあるルーカス学園長と顔合わせをしたんだったかな。その時に、何で水精霊になったのかも教えてもらったよ」
マリーは目を伏せる。
普段の元気な彼女の姿はそこにはなく。吹けば消えてしまうのではないかと言うような雰囲気を感じさせた。
「貴族の子供たちが集められたパーティーがあったんだ。そこで、仲の良かったソフィとあたしは一緒に話をしていたんだけど……そこで人種も国籍も不明な奴が乱入して来てさ。自分ごと周囲を爆発させる魔法を使ったんだ。その時に飛んできた破片がソフィの後頭部に直撃したみたいなんだよ」
そこからのソフィは意識不明の重体。当時の宮廷魔術師であったルーカスがあらゆる治癒魔法を試したものの回復の兆しは一向に見えなかったという。
「一度だけ、目を覚ましたことがあってさ。首から上しか動かなかったんだ。一番辛かったのはソフィの筈なのに、あたしを励まそうと歌を歌ってくれてさ。――勇輝は覚えているか? クロウがオルゴールを盗みに屋敷に来たことを」
「あぁ、ソフィが自分の声だって驚いてたな。もしかして、その時の?」
マリーはゆっくりと顔を縦に振った。
「その後に、ソフィは昏睡状態に陥った。そして、ルーカス学園長は治癒魔法に過剰に魔力を注ぎ込むことで何とかしようとしたらしい。その反動でソフィの魂が水精霊化した挙句、肉体もその膨大な魔力で弾かれて、地中を流れるオドの流れに乗って転移してしまった――って推測なんだと」
「それで妖精庭園の中心部にソフィの体が……」
勇輝は明らかになったソフィの真実にどんな顔をしていいかわからなかった。
少なくとも、ルーカスと出会えたことを喜ぶべきか。それとも、今まで過ごせなかった時間を可哀そうと思うべきか。すぐには判断がつかなった。
「因みにルーカス学園長はその魔法を使ったことで、王都の地下を流れるオドの流れを大きく変えてしまったらしい。それで責任を取って宮廷魔術師を辞めたんだって」
「それは……災難だったな」
愛する者を救いたいが為に必死だったのだろう。
その結果は生死不明で、己は昇り詰めた地位を追われることとなるなど、当時のルーカスには相当なダメージだっただろう。それでも魔術師ギルド長と魔法学園長の兼任しているところを考えれば、ルーカスがそれだけ優秀だということがわかる。
「学園長。それから、治癒魔法が、使えなくなった」
「トラウマか……」
孫娘の命を救おうと全力を尽くしての失敗は、魔法に対する自信を打ち砕くには十分。使いたくても使えないというのは、むしろ、当然の結果と言って良いだろう。
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