緊急調査隊募集Ⅱ
勇輝が選ばれた理由は二つ。
一つは圧倒的な格上相手の戦闘経験の豊富さ。バジリスクのような巨大かつ強力な毒を持つ魔物や今まで封印するしかなかった魔物を相手に生還するばかりか、痛手を負わせたり倒したりしている。それは言い換えると、不測の事態においても対応できる能力があるとも言える。
もう一つは魔眼だ。その存在は冒険者ギルドに登録した時から認識はされているものの、その正体は本人も含めて一向に理解できていない。しかし、冒険者ギルドは過去に勇輝が一人で異常な量の――しかも、希少価値がある――薬草を納品していたことから、何かを見分ける受動型の魔眼なのではないかと推測していたようだ。
「なるほど、それで名前があったんですか……」
受付嬢である銀髪眼鏡のコルンから説明を受けて、勇輝はやっと納得できた。
アイリスが持ってきた羊皮紙を勝手に戻すわけにもいかずに右往左往していたところを、彼女が通りかかった。そこで書かれていた人物の選考基準を試しに聞いてみたところ、意外にも簡単に教えてくれた。
相変わらず、何の動物かわからない耳を小刻みに動かしながら、コルンは勇輝たちへと話を続ける。
「はい。他にもマリー様の場合は、先の蓮華帝国によるローレンス侵犯事件においての活躍が評価された結果です。火力、範囲、制御力は特定条件下ではBランクの上位に食い込むことでしょう」
「えっと、そこまで言われると恥ずかしいな」
「ただ、今回は閉鎖空間での調査になるため、範囲よりも火力と制御が重視されます。加えて、今回の相手は水に関係する存在と思われます。その為、火属性魔法を得意とされるマリー様の場合は必ずしも必須と言う訳ではありません」
「で、ですよねー」
マリーは嬉しさ半分、悲しさ半分と言った様子で複雑な表情を浮かべていた。
そんな中、アイリスは羊皮紙の他のメンバーを指し示しながら、選抜理由をコルンに問いかける。
「ギャビンさんとオーウェンさんは、その能力が知れ渡っているのでお話しできますね。ギャビン様は過去視の魔眼の持ち主です。被害者から事件発生時の状態を読み取ってもらうことができますので」
尤も、肝心のギャビンは遠方に出かけているらしく、協力を得ることが難しい状況だとか。
「じゃあ、オーウェンは?」
「オーウェン様は水の魔力制御に長けてらっしゃいます。調査・攻撃・防衛・捕獲などあらゆる点において活躍が期待できるでしょう」
「私も、できる」
アイリスは羊皮紙を持った手とは逆の手を挙げて、自らの魔法の腕をアピールする。
飛び級の天才少女。その実力はオーウェンが使った水の魔力制御を、見よう見まねで再現できるほど。魔法に関する能力は高い。
ただ、コルンの表情は困惑の色が浮かんでいた。いつもはきっぱりと言うべきことは言う彼女の視線は、受付カウンターの方にまで向けられている。まるで代わりに上手く答えてくれる人はいないかを探しているようだ。
「えっと、アイリスの場合はまだ若すぎるから書かれてないんじゃないかな? やっぱり、こういうのを募集する以上は安全第一な部分もあると思うし」
「むぅ……」
アイリスは頬を膨らませて手を下げる。その様子を見るに理解はできるが、納得いかないという感じだろうか。
コルンが勇輝に申し訳なさそうに目配せする。
「あぁ、そうだ。俺なんですけど、精霊の休息日でみんなと一緒に過ごす約束を先にしていたので、今日は無理そうです」
「もちろん、すぐにお返事を頂かなくても結構ですし、参加を強制する物ではありません。気になさらないでください。もし、タイミングが合うようでしたらギルド職員にお声掛けください。当分は張り出して置く予定ですので」
そう告げたコルンは、アイリスから羊皮紙を受け取って依頼掲示板へと向かって行った。
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