緊急調査隊募集Ⅰ
再びやって来た冒険者ギルドは一度目とは異なり、ホールにいる人の数が増えていた。
ただ、普段と違い、冒険者の人数が増えているのではなく、明らかにローブを纏った人や一般人の恰好の人が増えている。
「まさか、また誰か襲われたのかな?」
「いや、そんなはずは……。そうだとしたら、もう四人目だ」
勇輝は桜の言葉を否定しながらも、頭の片隅で否定しきれずにいた。
多くの人は依頼掲示板か、受付へと群がっている為、普段通りの光景と言えなくもない。何か異常なことが起きていないかと、勇輝は近くの人の会話に耳を澄ませる。
「おっかねえな。やっぱり天然物のダンジョンだと、死が近く感じるぜ」
「あぁ、今日の午前だけで六人が運び込まれたって話だ。街の中に引き籠ってる俺たちだけど、こうも立て続けに起こったら魔物の仕業じゃない可能性も考えんといかんな」
「まったくだ。人間がやらかしてたんなら、ダンジョン外も安全じゃねえ。商品の入出荷にも影響が出たら、こっちは生きていけねえんだからな。そこんとこは冒険者ギルドもしっかりやってほしいもんだ」
恰幅の良い男性が二人。依頼掲示板を遠目から眺めてぼやいていた。話の内容から察するに、どうも商会ギルドの人間らしい。
「なるほど、魔物に見せかけた人の仕業ってこともあるのか……」
「そんなことできるのか? 水の女神様だって言ってるってことは、少なくとも、その姿を見てるんだろ?」
「アイリス。水の魔力制御で水精霊みたいな人の姿を創り出して動かすことは出来そうか?」
マリーの反論に対し、勇輝はすぐにいくつかの方法を考えつく。それを確かめるためには、水に魔力を通して操る技術に長けたアイリスに聞くのが一番だった。
「できるよ」
「じゃあ、それに斧を持たせることは?」
「……鉄の手斧ならいけるけど、金だと重いからできない、かも」
同じ体積で金と鉄を比べると、その重さは二倍以上ある。銀あらば約一・三倍なので、行けなくはないのだろうが、流石に金は厳しいようだ。
「金の斧と銀の斧……。アイリスが難しいとなると、やっぱり水精霊とか女神様なのかな?」
「或いは、アイリスさんよりも優れた魔力制御の使い手、とか?」
フランが何気なく呟いたその一言に、アイリスの目が怪しい光を放つ。
「その魔法使い、興味がある。ちょっと依頼が出てないか、見て来る」
「あ、ちょっと待てよ。アイリス!?」
アイリスはマリーの制止を振り切り、依頼掲示板を取り囲む人の群れに飛び込んで行った。
マリーはアイリスを止めようと出したままの手を下ろし、フランの方へと振り返る。
「フラン。気を付けておけ。アイリスの魔法に関する知識欲は海よりも深いんだって。ああなると止まらなくなるぞ」
「そ、その、ごめんなさい」
「多分だけど……、あいつ『今回の事件の依頼』が出てたら、間違いなく受けるだろうな」
マリーは感心とも呆れともつかない表情で、依頼掲示板の方を見る。
まさか、と思いつつ勇輝もアイリスの姿を探していると、人混みの中からアイリスが羊皮紙片手に抜け出て来た。何人かの人が怪訝な顔で振り返りながらも、また掲示板へと視線を向ける。
「ほらな?」
「あはは……。まぁ、アイリスなら確かにこうなっても不思議じゃないかも……」
桜は小走りで戻って来るアイリスを見ながら苦笑いをする。
「アイリス。今日は休息日なんだから、遊んでゆっくりするって決めたんでしょう?」
「でも、桜。これを見て」
アイリスは羊皮紙を桜へと渡す。
その内容を読み始めた桜は――と思う間もなく、彼女の表情が固まった。
「これ、指名依頼!? ――しかも勇輝さんやマリーの名前が入ってる」
「え、俺!?」
勇輝は唐突に出て来た自分の名前に驚き、桜が差し出した羊皮紙を受け取る。
そこには、こう書かれていた。
『冒険者多数の負傷の為、ダンジョン調査隊のメンバーを募集する。尚、安全確保の為にBランク以上の冒険者を中心に編成する。ただし、以下の冒険者は冒険者ギルドより特別に要請するものである。ギャビン・サリバン、オーウェン・ライ、ユーキ・ウチモリ、マリー・ド・ローレンス――』
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