増加する被害者Ⅴ
玄関部分は白い石の柱を細かく配置し、その背後にある建物自体は白い直方体を組み合わせて積み上げられている。
やはり神の威光というものも大切なのだろう。曇っていても、建物自体が輝くような美しさが感じられた。
「外壁や城壁のミスリル原石ほどじゃないけど、綺麗だろ?」
「こういうのは神殿って言う方が俺はしっくりくるな」
「神殿は神様が祀られてないとダメだろ? 一応、ここは神様の教えや功績を伝える場所。神官にとってはそれを学ぶ学校みたいなものでもあるんだ」
マリーはそう告げると、何も気にすることなく教会の中へと入って行く。
そもそも神社と寺以外の宗教施設に出入りする機会が少なかった勇輝としては、勝手気ままに入っていいものかと怖気づいてしまう。
「大丈夫だよ。他にも、教会は博物館や美術館の側面も、ある。一般人でも気軽に入って、問題なし」
「そうか。安心したよ……」
勇輝は胸を撫でおろしながら教会の中へと足を踏み入れる。
すると真っ先に視界に入って来たのは、建物の最奥。そこには本来ならば祭壇や像があるのだろうが、噴水のようなものが置かれていた。
「ここは湧き出す水で時間を計る役割があるんだ。だから、ここの神官が鐘を鳴らして街中に時間を教えるのさ」
「教会ごとや建物ごとに、役割がある。あとはマリーも言ったように、学校の役割も。だから、魔法学園に通わなくても魔法が習得できる」
魔法学園が公立学校なら、教会は私立学校と言ったところか。カリキュラムの違いこそあれ、生きていくために必要な能力を育てるのは変わりない。
「その教会の所属する神様によって教えてもらえる魔法にもいろいろ違いがあるってこと?」
「うん。ここは水の神様だから、水魔法を中心に教えてもらえる。水魔法は治癒魔法にも応用が利くから、もしかすると、さっきのことでギルドに呼ばれてるかも」
勇輝は二人の言葉を聞きながら、教会を見渡す。縦に溝が幾つもある特徴的な柱。歪みなく組み立てられた壁は言わずもがな。鏡のように磨き抜かれた床や展示された杯など、隅々まで手入れが行き届いている。
何人かの神官が中にいるようだが、特に警備をしているというわけではないようで、それぞれが何かしらの仕事をする為に移動しているだけのように見えた。単純にこの建物が勇輝たちのいる中央の棟で、その左右に別の棟があるので、行き来しているのだろう。
勇輝が彼らの方に視線を移すと扉が開く音が聞こえた。
「……まさか、こっちもか」
右の棟から出て来たのは何人かの冒険者たち。その内の一人だけ装備を外している男がいた。気怠そうにしながらもお礼を何とか言おうとしているのが傍目から見てわかる。そんな彼の首筋には大きな傷跡が残っていた。
「今日だけで三件も? 流石に多すぎなんじゃないかな……」
桜が不安そうに去って行く冒険者たちに視線を送る。
冒険者ギルドで遭遇した者もそうだったが、見た目からして中堅の冒険者たちに見える。一人が神官が使うメイスを持っていたので、その関係でここに訪れたであろうことが窺えた。
全員が不安そうにしている中、近くを通った二人の神官の会話が聞こえて来た。
「水の女神様に化けるとは、魔物と言えども流石に許せないな」
「まったくだ。司祭様がお許しくだされば、我々がダンジョンに向かって懲らしめてやるのだが……」
「休息日の真っただ中だ。それが終われば年末年始。当分、そんな暇はないさ」
数メートル先を通り過ぎ、神官たちは反対側の建物へ消えて行く。
ちょうど、近くにいたのは勇輝たちだけで彼らの会話を気にしているような人は他にはいなかった。
「冒険者ギルドは、どう出ると思う?」
「多分、緊急の調査隊を組んで、それでもダメだったら討伐隊かな? 私もあまりそういうのは知らないけど、お父さんにそういうことが昔あったって教えてもらったことがあるから」
桜の言葉に勇輝は、それで上手く解決してくれればいいのだが、と考える。ただ、頭の片隅では、これで終わるようには思えないと直感が告げていた。
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