増加する被害者Ⅳ
精霊の休息日と言ってもダンジョンに潜る冒険者は一定数存在する。しかし、彼らの多くは自分たちが狩ることができる魔物の限度や階層の限界を熟知し、それ以上の領域に足を踏み入れる時には、相応の警戒をして挑む。
少なくとも、装備の質や年齢などを見た感じからして、勇輝は彼らが登録したばかりのルーキーとは思えなかった。恐らくは中級者。Cランクくらいの実力はあると感じていた。
「あんな強そうな人たちでも、大怪我で運ばれてくることなんてあるのか?」
「いや、治癒魔法を重ね掛けする必要があるような怪我人が来るなんてことは、一ヶ月に二桁もいかないと思うぞ。しかも、大抵は登録してから半年くらいの奴が多いって聞く」
ほとんどの場合は、ポーションを使って何とかなる場合が多いらしく、治癒魔法を使える者がいれば重症になることはないのだとか。
憔悴しきった表情で仲間をギルド職員に預けた冒険者は、電源が切れたロボットのように座り込んだ。
「いったい、何があったんですか?」
ギルド職員がその男に問いかけているが、疲労困憊と言った様子で首を横に振るだけだった。
その様子を勇輝たちは見ながらも、邪魔になってはいけないと背を向ける。そんな勇輝たちの背後から一言。冒険者のかすれた声が耳に届いた。
「水の、女神様が――――襲って来た」
その言葉にアイリスの目が鋭くなった。
冒険者ギルドを出た勇輝は、メインストリートを行き交う人々の中へ行く前に、どちらへ向かおうか悩むマリーたちへ声をかけた。
「なぁ、さっきの人の言葉だけど……聞いてたか?」
「もちろん。ばっちり聞こえてたって。女神様とは、また大層な名前が出てきたな」
マリーは呆れたように肩を竦める。そして、メインストリートから脇に入る路地を指差して、歩き始めた。
勇輝はその後に続き、人の流れから外れたその空間に滑り込む。
「水が豊富な王都なんだ。神様の信仰があってもおかしくないよな。それで、何を知ってるんだ?」
「海の神様や川の神様とかいろいろいるけど、この王都で信仰されているならテティス様あたりが一番有名だと思う」
その上で、とマリーは壁に背を預けて首を横に振った。
「その女神様は争いをあまり好まないからな。正直、あの冒険者が本当にテティス様だと思っていたのなら、驚くのも無理はないよ」
「そもそも、神様が地上に降りて来るなんて、滅多にない」
アイリスもマリーの意見を肯定する。その中で勇輝はアイリスの発言に思わず目を見開く。
「え、神様が地上に降りることなんてあるの?」
「ある。百年に一度あるかないかだけど、ちゃんと降臨した資料は残ってる。魔法学園の、噴水のところにあるユースティティア様の像は、本人が降臨して置いていった物」
「……フットワーク軽いじゃん」
契約などの争いが起きてどうにもならなくなった時は、ユースティティアが裁定を下す。その為に毎回降臨するよりも、声と力を届けるための依り代があれば問題ないということなのだろう。
急に勇輝は姿勢よく椅子に座って、電話の受話器越しに裁判をしている姿を想像してしまった。神様なので目を瞑って思念を送るだけで充分なのだろうが、それでもどこかシュールさを感じさせる。
そこまで考えて、少しばかり不敬だと気付いた勇輝は、軽く頬を叩いてマリーたちの話に耳を傾ける。
「そういえば、勇輝たちは教会には行ったことが無かったんだっけ?」
「前にクレアが援軍として神官のルイスさんを呼びに行った時に外観を見たことがあるくらいかな? 確か、マリス様だっけ?」
勇輝の記憶では、防衛の為ならば積極的な攻撃をするべきだという教義の軍神だったはずだ。
「桜も連れて行ったことないし、フランたちが合流するまでは時間がある。少し見に行くか!」
「おー」
マリーの鶴の一声に勇輝と桜は顔を見合わせる。ただ、否定する理由もないので、二人は頷いて彼女の後を追うことにした。
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