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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第5巻 暗黒の淵にて、明星を待つ

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ウンディーネ救出作戦Ⅲ

 荷物を全てしまい込み、ユーキたちはダンジョンの入口へと向かう。すると、前から一人の男がすごい形相で駆けて来て、ユーキたちの後ろへと通り過ぎていった。みんなが不思議そうに振り返るとサクラが疑問を口にした。


「何かあったのかな?」

「あれじゃない? あたしが爆発させた爆破石」

「「「……あー」」」


 ユーキ、アイリス、フェイが納得したように頷くが、真っ先にフランが焦り始めた。


「みんな。『あー』じゃないですよ。さっきのがばれたらなんて怒られますよ」

「それは困るな。せっかくここまで装備を整えたのに足止め喰らうのは……」

「じゃあ、あたしとアイリスお得意の『逃げるが勝ち作戦』発動!」


 マリー、アイリスがあっという間に駆け出していくところを見た瞬間、「この二人、相当色々やってきたんだろうな」という考えと共に、それに振り回される教員やオーウェンの姿が目に浮かんだ。

 先程の男が被害のない中庭を見て首を傾げながら戻ってくると、ユーキたちの装備を見て何かに気付いたのか、大声で呼びかけて来る。


「おーい、そこの子どもたちー、待ってくれー!」

「やばっ! さっきの人です」


 フランが声を上げたのと遥か後方にいる男が走り出したのは同時だった。


「俺たちも行くぞ」

「そ、そうだな。……後で謝りにいっとこ」


 一度、結界と城壁を壊した前科があるため、ユーキは申し訳ない気持ちで駆け始めた。後ろから聞こえていた男の声が少しずつ小さくなる。身体強化で加速したユーキたちに男は必至で追いつこうとするが、その足は既にもつれ始めていた。


「待って、くれぇ……」


 十秒も走ると息を切らして膝に手をつく。追いかけるのを諦めてしまった姿を尻目に、ユーキたちはダンジョンのある広間へとなだれ込んだ。


「ユーキさん。ダンジョンとはいえ、学園の管理下にあります。話に聞いた洞窟以上の魔力が満ちている場所はないと思うので、ウンディーネさんに逐一確認を取るようにお願いしますね」

「わかった。フランは外での資料集めを頼む」


 真っ先に勇輝が飛び込むと、次にマリー、アイリス、フェイ、サクラと続く。


「おし、いくぜ。そっちのことは任せたぜ」

「いってくる、ね」

「万が一の時は頼んだ」

「フランさんも無理をしないように!」

「大丈夫です。任せてください」


 それぞれがフランへと声をかけながらダンジョンへの入口へと入っていった。





 全員を見送るとフランは長く息を吐いた。最善を尽くした、とは到底言えないが自分の知り得る限りの情報を駆使してかき集めたアイテムだ。万が一の時も考えて、()()()()()()()()()()も用意した。それが使われないことを祈るばかりだが、ダンジョンへの入り口を見ているとどうにも不安な気持ちが抑えきれない。


「何もないといいのですが……」

「や、やっと追いついた」


 フランが胸の前で手を組んで不安を紛らわせようとしていると、来た道から男の声が響いた。今日は真夏日ではないとはいえ、相当な暑さだ。男の顔は汗だくになり、息も絶え絶えだった。

 そんな男を置いて逃げるのも戸惑われてしまい、フランは男の方へと歩み寄った。


「あ、あの、大丈夫ですか?」

「わ、私のことは、いい。他の子どもたちは、どうした?」

「えっと、ダンジョンに入っていきましたが……」


 その答えに男は血の気を失って膝をついた。両手で頭を抱え、すべてを失ったかのような顔をしていた。


「て、手遅れだったか」

「あの、手遅れとはどういうことですか」


 不穏な言葉にフランが問いかけると男は、そのまま床へと頭を抱え込んだ。


「学園長に言われたのだ。『ダンジョンは危険だから、生徒を入れぬように』と。それなのに、また犠牲者を出してしまうとは……!」

「ぎ、犠牲者とはどういうことですかっ?」

「言ったままの意味だ。ここ最近、ダンジョンに入った者が誰一人帰って来ておらんのだ。誰一人、だ。男子も女子も一年生から四年生まで一人残らず。これ以上犠牲を出してしまったら末代までの恥、死んでも死に切れん……」


 涙を零しながら床を叩く。その姿にフランは呆気に取られていたが、正気に戻るとことの重大さをやっと理解した。魔法学園には貴族の子女が多く通っている。そんなところで集団失踪事件が起これば国が黙っていないだろう。当然、管理責任も問われる。ルーカス学園長を筆頭として、現場の責任者まで裁きは免れないだろう。結果次第だが良くて死刑、酷ければ一族郎党皆殺しすら考えられる。


「では、一刻も早く伯爵にも連絡しなければ」

「お、お願いだぁ。もう少しだけ待ってくれぇ。学園長が色々と動いてくださってるんだ。外部に知られたら、どうやってもお終いなんだ。三日、三日だけでいいから待ってくれ」


 ――――三日。

 その言葉は伯爵へと助けを求めようとしたフランの意思を揺らす言葉だった。昨日に決めた救援を頼む目安が三日だったのだ。目の前で必死に土下座をする男を見て、フランが下した決断は保留だった。


「わかりました。その代わり、学園長の所に私も一緒に行かせてください。状況次第では、伯爵に知らせた方が解決できる場合もあるでしょうから」

「申し訳ねぇ」


 実際に戦っているところは見たことがないが、噂はそれなりに聞いたことがある。加えて本人が学園所属時代に踏破する自信があったとも言っているのだ。最悪、伯爵が突入した方が被害が少なくて済む可能性が高い。

 フランは男が落ち着くのを待ち、学園長の部屋へと向かった。

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