増加する被害者Ⅱ
その中でも最も目立つのは、両脇を仲間に抱えられて運び込まれてきた大柄な男だ。
上半身の鈍色の鎧の一部が黒く染まっている。数秒遅れて、勇輝はそれが血が乾いた跡だということに気付いた。
「おいおい、穏やかじゃないな。いったい何があったんだ?」
マリーが医務室に運び込まれていく男を見ながら呟いた。
ギルド内にいた所金は勿論、他の数少ない冒険者たちも何事かとざわついている。
すぐに職員たちはギルド内に治癒魔法が使える魔法使いがいないかを呼びかけ始め、ある職員は魔術師ギルドと教会ギルドに応援を求めると告げて、箒を片手に外へと出ていった。
「血は止まってるけど、他の部分は大丈夫……だよな?」
勇輝は魔眼を開いてみる。人や物が放つ光から性質を推測できるのだが、残念ながら男の放つ赤い光や装備の光以外に特段変わった様子は見えなかった。少なくとも、今までに見た敵たちような赤黒い色は確認できない。
大量出血の場合、ポーションで傷を塞いだとしても血がすぐに補充されるわけではない。ランクの高いポーションなら話は別なのだろうが、そこまでのものを扱っているところを勇輝はあまり見たことが無かった。
「なぁ、俺たちが使ってるポーションのランクは低級だけど、中級とか高級って、どれくらい出回ってるんだ?」
「中級だとBランク以上の冒険者が念のために数本持っていることがあるって聞いたことがあるな。一本の値段がかなり高いから、手傷を負うことが前提になる討伐依頼じゃない限りは購入しないって、姉さんが言ってた」
「そういえば、何メートルもの巨大な魔物の討伐依頼って、ゴーレム以外だと難易度が跳ね上がるんだっけ?」
勇輝はギルドの資料を見た時の記憶を引っ張り出す。
日ノ本国でいう大鬼にあたるオーガは、ゴーレムなどと違い純粋な膂力が高く、知能もある。体重や体格差があるというだけで脅威になるのだから、単純にでかい魔物はランクの低い冒険者には回せないというギルドの判断は当然のものだろう。
「高級ポーションは、一部の貴族が、家族の万が一のために、購入しているとか。家によっては、家宝みたいな扱い」
「……貴族の家宝ってことは、大金貨とかじゃあ済まなそうだな」
勇輝は最低で白金貨――すなわち一千万円が必要になると推測した。
騎士の叙勲を勇輝が受けた際に、国民を救ったとしてまとまった金を得ることができた。それよりも上の貴族たちを基準に考えると、領地経営やら宮廷での役職手当などをしている者たちの金でギリギリ買えるならば、それくらいはあってもおかしくはない。
(日ノ本国のダンジョンで手に入れた薬は、強力な呪いを解くことができる物だった。もし、これが毒や麻痺、呪いといったあらゆる異常状態を回復させたり、不治の病を治したりする効果があるとしたら、大白金貨くらい払う価値はあるよな……)
勇輝はこの世界に存在するポーションで、最も価値が高いものの効果が何か聞いてみたい気持ちに駆られる。
知的好奇心をくすぐられたら聞かずにはいられなかった。桜はファンメル王国のポーション事情には疎いと判断し、勇輝はマリーとアイリスに問いかける。
「因みに、一番高いポーションは? やっぱり死者蘇生とか?」
「いや、そんなのは御伽噺の中の飲み物や食べ物だろ? 神様が口にする物として不死とか不老の飲み物が出てくるくらいで、現実にはそんなものがあったら、真っ先に王族が買い占めているはずだって。それにそんなのがあったら、戦争が起きてもおかしくないだろ?」
マリーは呆れたような表情を浮かべた。
その一方で、アイリスは珍しく眉根を寄せて、唸りながら答える。
「不老の飲み物なら、有名なのがある、よ? 王城が建っているところに、それを零したから、きれいな水が永遠と湧き出るんだって」
「あぁ、なるほど。そういうのは、ありがちな話だよな」
古文の授業で習った竹取物語――――かぐや姫の話にも、不死の薬が終盤で出て来たことを勇輝は思い出す。
その薬は最後、火山の火口に投げ込んだから煙を吐き出し続ける。故に「不死の山」で「富士山」と呼ばれるようになったのだ、という終わり方をしていた。
「勇輝は、不老不死に、なりたいの?」
アイリスが首を傾げて、勇輝に疑問を投げかける。
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