団欒Ⅶ
みんなで服や本を見るのは以前にもあったことだが、今日は珍しい店にも足を踏み入れてみることになった。
「いやあ、やっぱり一度は憧れるよな。空を飛ぶっていうのはさ」
マリーが店に入るなり言い放った。
勇輝たちが訪れていたのは、空を飛ぶための箒や杖の専門店。空を飛ぶという行為は難易度が高く、試験を受けて合格しないと飛ぶことが許されない。加えて、免許にも段階があり、街中になるほど、ランクの高いものが要求される。
「街の中だと、他の人や建物に被害が及ぶ、から」
「じゃあ、一人で森の木に突っ込む分には自己責任ってこと?」
「多分、そう」
アイリスの解答に勇輝は苦笑いを浮かべるしかできない。
落下恐怖症の勇輝にとっては、空を飛ぶ憧れよりも怖さの方が上だ。想像するだけで足の感覚が消えてしまった気がする。
「一応、魔法学園だと初級の免許が取れる授業はあるらしいんだけどね……」
「あるんだけど?」
「半数の人が脱落する授業なんだって」
話を聞くと、桜も空を飛ぶ憧れから授業を受けようとしたのだが、あまりのハードルの高さに受ける前に諦めたという。
わざわざ留学までしてきた勉強熱心の桜が、説明の時点で諦めるというのは明らかに異常だ。
「前年度の合格した先輩たちが、飛ぶデモンストレーションとかをしてくれるんだけどさ。免許を持ってても、あんな酷いことになるのが当たり前って言われると……ちょっとな」
桜だけでなく、マリーまで表情を強張らせる。いったい何があったのかを聞きたい気持ちと知りたくない気持ちが、勇輝の心の中でせめぎ合う。
そんな勇輝の心の内を読んだかのように、アイリスが説明をしてくれた。
「飛び過ぎちゃうの」
「飛び、過ぎる?」
「うん。空に向かって、真っ逆さまに落ちる」
その言葉に勇輝は全身の血が抜け落ちたのではないかという感覚に陥った。
どこまでもどこまでも上昇する箒。それを掴み続けて天まで昇るか、それとも手を離して地に落ちるか。そんな究極の選択を迫られるなど、死んでも御免だ。
「魔法学園の結界は、そんな事故が起きないように一定高度まで達した箒を、強制的に制御して地面に戻す魔法が組み込まれてるんだと」
「魔法様様だけど、それでも事故が起きそうだな」
「起きそうじゃない、起きてるんだよ」
そう言いながら、展示された箒のコーナーへと足を進める。
整然と飾られた箒は、さまざまな種類の木で作成されているが、どれも丹念に磨かれており、魔法石の灯りをこれでもかというくらい跳ね返していた。
勇輝が見慣れた竹ぼうきなどとは比べる間でもなく、超が就く高級品であることが値札を見なくても理解できる。
「無骨に真っ直ぐな柄もあれば、滑らかな曲線を描いているのもある。ここら辺は好みだけど、あたしはこういうのが好きかな」
そう告げたマリーが示したのは、柄の途中が雷のように折れ曲がっているものだった。
マリーの言葉を皮切りに、桜やアイリスも各々が好きな箒を指差して話し始める。勇輝もそれに触発されてか、飛ぶ勇輝は無くても、見た目が好きな物がないか探し始めてしまう。
「俺は箒よりも杖派かもな……」
勇輝は背後の棚にある杖たちを見る。
箒は地面を掃く部分に隙間がある上に大きく膨らんでいる。研究も実験模したわけではないが、空気抵抗が大きそうに思えた。
「そう言えば、勇輝は母さんに連れられて実家まで行ったんだったな。どんな感じだった?」
「悪いけど、そんなことを考える余裕はなかったよ。何せ、こっちは一秒が十秒とか二十秒に引き延ばされた感覚の中にいたんだからさ」
「あぁ、そういえばそうだったな。悪い悪い」
地獄のような後遺症の真っただ中にいたことを告げると、マリーは申し訳なさそうにする。勇輝は手を振って、気にしていないことを示すと、次のコーナーへと視線を移した。
一通り店の中を巡った後、アイリスが一つ提案を申し出た。それはこの時期の冒険者ギルドの依頼を見てみたいというものだった。
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