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団欒Ⅵ

 わずかにまぶされた塩のしょっぱさが芋自身の甘さを引き立てていた。

 冬の風物詩とも言える味を噛み締め、勇輝はもう一口齧りつく。


「うん、冬はこういうのだよな。後は餅とか鍋とか角煮も良いな。あ、後はおでんとかも」

「勇輝さん。もしかして、グルメ?」

「そのつもりはないかな。どちらかというと、母さんがいろいろな料理を作ってくれたから、その影響かも」


 勇輝は今まで家で食べて来た料理を思い返す。

 社会人になるまでは、母親の料理で育って来た。約二十年の生活において、母親が料理をミスしたのは二回のみ。その原因も体調不良で味付けを間違えただけというものだ。長い間、運動をやっていけたのも、そのおいしい料理があったことが大きな要因の一つには違いない。


「じゃあ、機会があればお母様の料理を、私も挑戦してみようかな? レシピとかは覚えてる?」


 桜も白い息を吐きながら、薄曇りの空を見上げる。


「あれ、桜って料理するんだ」

「うん。日ノ本国の学校に通っていた時は、ご飯を作る係があったから。医食同源って言って、日頃の食事に気を付けることで病気を防ぐって考え方。転じて、食事に気を付けることで怨霊や呪いに負けない体を作るって目的があったんだよ」

「へー、食事で呪いをねぇ」


 マリーは興味深げに頷くが、その視線は真横を歩くアイリスへと向けられていた。


「食べ過ぎはそもそも健康に悪いと思うなあ」

「むぅ、桜まで……」


 純粋に心配をする桜だが、アイリスは不満そうだ。そんな彼女の手には既に肉の無くなった串が握られている。


「早食いと大食いは、病気の元だからな。気を付けないと、完治しない病気になることもあるぞ。それに対応した薬があるかどうかは、知らないけどな」


 少なくとも、異世界で糖尿病の治療薬があるとは考えづらいが、結果的に治すことができる薬の存在は否定しきれない。

 野菜もしっかり食べて、運動もしているアイリスは大丈夫だと思いたいが、人生は何があるかわからない。可能であれば、健康に生きる方法を伝えておくのは悪いことではないだろう。


「え、それ、本当?」

「あぁ、だから腹八分目。つまり満腹になる手前で食べ終わるのが良いって言われてるんだ。早食いだと、腹がいっぱいだって感じる前に食べちゃうから、余計に危険だな」

「少し、気を付ける……。でも、食べ物を粗末にするのは、ダメ。だから、これは食べる」


 そう告げたアイリスは、心なしか口に運ぶ速度が落ちる。その姿に桜もマリーも珍しいものを見たという表情を浮かべていた。

 会話を弾ませながら、食べ歩くこと数分。ガラス越しに見える商品に足を止めたり、行列の先にある店が何かを看板で確認したりしながら進んで行く。その内、アイリスも食べ終わり手にはゴミだけが残った。


「これ、魔法で燃やして、周囲の人が驚かないか?」

「どうだろう? まぁ、物は試し。やってみるのが一番だ」


 勇輝が首を捻っていると、マリーは自身の杖を串の入った包み紙へと向けた。攻撃用の魔法ではなく、灯りの代わりや基礎訓練で使う発火の魔法を無詠唱でマリーが発動させる。すると、灰も残さずに一瞬で燃え尽きてしまった。


「へー、これ便利だな。多分、魔法の火に反応して燃えやすくしてるっぽい。もしかして、これのために串と袋から開発したとかじゃないよな?」

「いや、フランなら、やりそう。なんだったら、特許とかも取ってるかも」


 フランはテイクアウトの方式に目を付けただけでなく、その後のごみの処理まで考えている。

 それだけでも勇輝は、フランがどれだけ物を売ることに真剣なのかを感じることができた。一歩間違えれば、街中がゴミだらけになることもあり得る。それを防ぐ対策まで自力で用意したのならば、それは才能と言う言葉だけでは片付けられない。


(後は、燃やす手間を面倒と思う人たちがどれだけいるか、だな)


 心配な点はまだあるが、フランが上手くやれているようで勇輝は一先ず安心した。

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