団欒Ⅲ
勇輝はいつも通りの二人の様子に安心感のようなものを覚えながらも、本来いるはずのもう一人の姿が見えず辺りを見回す。
「あぁ、フェイなら来ない。緊急の任務ができたらしい」
「緊急の任務?」
精霊の休息日は祭典的な側面もあると聞いている。普段よりも人々が浮かれる分、治安が幾分か悪くなるのは容易に想像できるが、緊急などと言われれば穏やかではない。
「あぁ、何でも昨日、たくさんの魔物が屋根の上を走って行ったっていう目撃情報があったらしくてさ。街の警備を二倍に増やすことになったらしい」
その言葉を聞いて、勇輝と桜は気まずそうに視線を合わせる。言葉を交わさずとも、「あのことか」と、以心伝心で理解していた。
昨日の二人のデート中に、ダンジョンの魔物に目を付けられた勇輝が追われることになってしまった。そのせいでフェイの休日を潰すことになった。非常に心苦しい気持ちになった二人は、表情を引き攣らせる。
(今度、何か埋め合わせしないとな……)
ただでさえマリーの護衛をしていて忙しいのに、日々の自主練や王都の騎士団の仕事の手伝いなど、フェイには休む暇があまりないと聞いている。そんなフェイの為に出来ることは何か、と勇輝は考えを巡らせる。しかし、勇輝にはフェイが喜びそうなものが浮かんで来なかった。
短い時間とはいえ、この世界に来てから結構付き合いはある方だ。なんなら、ファンメル王国における勇輝の数少ない友人にしてライバルと言っても過言ではない。
「あ、そうだ。勇輝、フェイが言ってたことを一応伝えておくぞ。『僕がいないからって、気にするなよ』ってさ」
「あいつ、予知能力者かよ……」
「まさか。勇輝が辛気臭い顔をしていたら、言ってくれって頼まれただけ」
マリーはフェイの代わりとでも言わんばかりに、大成功、と意地の悪い笑みを浮かべる。
勇輝は少しばかりイラつきを覚えながらも、目の前の通りへと視線を移した。ここには騎士の見張りや巡回は来ていないようだが、もしかすると、どこかですれ違うかもしれない。そうした時に、いったいどんな表情をしていいか思い浮かばなかった。
「勇輝。フェイは王都の騎士団に混じってできるお仕事を楽しみにしてた。だから、そこまで心配は、いらない」
「そう、か。でも、何かしらでいいから、出来ることはしてあげたいとは思う。街を散策する中で、フェイが喜びそうな物とか店がないかも見ながら行こうかな、って考えてるんだけどさ」
どうだろうか、と勇輝が問いかける。すると、女子たちはみんな笑顔で頷いてくれた。
「じゃあ、とりあえず、どこに行く?」
「困ったらまずはメインストリートを歩くのが鉄則! ついでに何か面白い依頼とかが入っていないかギルドに寄るのもありだな」
「聖夜のダンジョンのこと、ばかりだと思う、よ?」
マリーがメインストリートに向かう人の波へと飛びこんでいくので、勇輝たちも慌てて彼女の後を追う。
前後左右、ありとあらゆる場所から様々な人の声が飛んでくる。その中で勇輝はファンメル王国に到着してから、まだ会えていない二人を思い出す。
「いや、ちょっと待ってくれ。フランとソフィは?」
吸血鬼の真祖だが吸血する衝動がないフランと、人間から水精霊になり、再び人間に戻れたソフィ。二人とも勇輝たちと出会って協力した友人だ。今日は彼女たちも一緒に遊ぶ予定になっていたはずだった。
「二人とも午後から合流するってさ」
「フランは休息日のおかげで、予想以上に稼いでる。ソフィは昨日の夜に、ちょっと体調を崩したから、検査をしてからだって」
片や嬉しい悲鳴、片や不穏な予感。
前者は放っておいても大丈夫だろうし、本人も望んでいることのはずなので心配はいらない。後者は何もかもが前例のない存在であるが故に、風邪を引いただけで大騒ぎになるのが勇輝には容易に推測できた。
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