真心を込めてⅥ
「いらっしゃいませ。ご予約の内守様ですね?」
「はい。少し早く来てしまいましたが、大丈夫ですか?」
この店に来たのは一度だけなのに、顔と名前を覚えられていることに驚く勇輝。逆に店員はそれが当たり前かのような表情だ。
勇輝の問いに、もちろんです、と返した店員は、正面左にある階段を上るよう手で示して、歩き出した。
「二階席――――じゃなくて、もしかして、屋外?」
もう一つ二つと上の階へと向かう階段を前に、桜は疑問を呟いた。
店員の案内するままに進んで行くと、魔法石の灯りに照らされた木の温かみが感じられる扉が目に入った。豪華な彫り物による装飾が目立つ一方で、平面部分の木目が美しく感じられる。
両開きのそれが開け放たれると、そこには既に何組もの先客が食事をしている光景が目に入った。他の建物よりも高い位置から見下ろせる場所のようで、どの席からでも一定の景色が見えるように階段状にエリアが分けられているようだ。
「スゴイ綺麗! ほら、門の近くまで光の道があんなに!」
桜が指し示す方向には、街の入り口である門がランタンの明かりを照り返していた。そこに至るまでのメインストリートも天の川のように途切れることなく続いていて、行き交う人々の影が映し出されることで、まるで生きているかのように煌めいていた。
そのまま、反対側へと視線を巡らせば、王城の城壁が眩い白い光で照らされていた。そちらはランタンのような黄色味を帯びたものではない。どうにも純度の高い魔法石は、白い光を放つのだとか。それに加えて、ミスリル原石の元々の色もあってか、より強い光を放っているようにすら見える。
「これはこれで壮観だな……」
イルミネーションの色とりどりの光で飾り付けられたものを何度も見て来た勇輝だったが、それとはまた違う感動があった。
「内守様、こちらになります」
案内されたのは、最下段から二つ目。その北東の端。ちょうど、メインストリートの半分と外へと至る門を一望できる。もしも、最上段の南北の全てを見渡せる席であったら、いったいどれほどの金額になっていたのか。それを考えると勇輝は内心、とんでもないところに桜を連れて来てしまったのでは、と今更ながら冷や汗が出て来た。
予約の時には見ないようにしていたが、偶然、視界に入ってしまった数字を思い出す限り、桁が一つ違ったような覚えがある。
席に座った勇輝たちは、改めて、そこから見える景色を見渡した。
天井も壁も無い屋外に見えるが、目を凝らすと一面が継ぎ目のない透明度の高いガラスで覆われているのがわかる。いったい、いかなる技術を用いているのかは不明だが、継ぎ目はほとんどなく、雪が積もる様子も無ければ、水滴が伝い落ちる様子もない。辛うじて、隅で直角に交わった接続部分だけがわずかに景色を歪ませる一本線として認識できた。
「それでは、料理をお持ちします。しばらく、当店自慢の景色をご覧になってお待ちください」
店員が踵を返す。その背中を見送って、勇輝は苦笑いした。
「今思ったけどさ、マリーと知り合いになってて良かったよ。テーブルマナーとか適当でいいって言いながらも、いろいろと教えてもらってたからさ」
「そうだね。確か、マリーのお父さんがここに来てすぐの時だったっけ? ほら、デザートだと思って茶碗蒸しが出された時の」
「そうそう、あの時なんてフェイが残った茶碗蒸しの為にじゃんけんに全力で――――」
かつて、この街で出会ったばかりの頃の話に花を咲かせる。
そんな中で、異世界から辿り着いたこの街で、生きていけるかどうかも不安だった数ヶ月前が、今の勇輝には嘘のように思えた。
「明日はマリーたちと一緒にお出かけだけど、勇輝さんは大丈夫?」
「あぁ、依頼も終えたし、かなり懐も温かくなったからな。みんなと仲良く遊びつくさないと」
そんなことを言っている間に、食前酒ならぬ食前の果実水が運ばれてきた。
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