逃走デートⅨ
たかが五分、されど五分。
身体強化をしているからと言って、安全に逃げ回れる保証も魔力がもつ保証もない。
「因みに、目的地はどこですか?」
「安心しなよ。二人がよく知ってる場所だから」
「俺たちが――――!?」
戸惑っていた矢先に、前方の屋根にかけた手が目に入った。しかし、ユーキは両手が塞がっていてガンドも撃てなければ、刀を抜くこともできない。
「桜! ちょっと、高めに跳ぶから気を付けて!」
「うん!」
足をかけて屋根に登り切った敵の遥か手前で、勇輝は足に魔力を集中させる。手を伸ばしても届かない高さまで跳躍し、次の建物に移るつもりだ。
跳ぶと同時に勇輝は視線を下へと移す。同時に、信じられない光景が飛びこんで来た。
「こいつらっ!?」
勇輝の足元にまで迫るのは槍を持った男の姿をした敵。仲間を踏み台に――――その踏み台になった仲間ですら、その男を上に跳ね上げるよう協力――――していた。
魔眼に映った槍は、ちょうどサクラの背中へと突き刺さる軌道を描いている。咄嗟に勇輝は空中で体を捻り、左足で迫る槍を蹴り飛ばした。
「くっ……!?」
槍を躱すことには成功したが、姿勢が崩れてしまう。何とかそれを立て直して屋根へと勇輝は着地した。
「ちょっと、マズイことになって来たね」
隣に着地した女性が苛立ちを隠さずに呟く。
「何がマズいんですか?」
「あいつら、ランタンから出た瞬間は見えないけど、人の姿になると魔眼が無くても見えるんだろう? ほら、下の方から聞こえてこないかい?」
走り出した女性の後を追いながら、ユーキは耳を澄ます。風が耳に叩きつけられる音に混じって、老若男女様々な人の叫びや悲鳴が聞こえて来た。
「幸い、狙いはあんただけのようだから何とかなっているけど、誤魔化すのが大変なことになりそうだよ。ほんとに」
「いや、笑い事じゃないんですよ! これ、どうするんですか!?」
「決まってるだろ。数には数をぶつけるか、圧倒的な力でねじ伏せるかだ。こういう奴らを相手にするのが得意な奴に任せて、高みの見物ってね――――こっちだよ!」
短剣を再び投げて、彼女は目の前に立ち塞がった敵を仕留める。道を切り開いて次の建物に移ると、急に進行方向を変えた。気付けば、その先にはもう家がない。
勇輝は慌ててついて行きながら胸元で丸くなっている桜に呼びかけた。
「桜、そっちは大丈夫そうか?」
「うん。でも、数が多すぎる。マリーたちなら、上手く薙ぎ払うことができたんだろうけど……」
「俺たちには俺たちの得意分野がある。桜は充分上手くやってくれてるよ。あと少しだけど、イケるか?」
「大丈夫、任せて!」
小さく頷いた桜に勇輝は周囲を見渡す。今、走っているのはメインストリートの東側。左手には王城を囲む城壁と魔法学園が見える。
「そう言えば、知ってるかい?」
「何をですか!?」
勇輝は速度を落として横に並んだ女性に聞き返す。
「ここの建物は王城に近いほど建物の高さが低くなってるんだ」
「城壁を跳び越える足場にされないようにとか、そういう理由でしょう?」
「それもそうだけどね。もう一つは屋根が壁にならないようにするためさ」
「何を言って――――」
勇輝が訝し気な表情を浮かべた瞬間、視界の端に何重もの光が瞬いた。
緑、緑、緑。視界を埋め尽くす緑の光の洪水。思わず魔眼を閉じてしまいたくなるほどの光量に、勇輝は思考が停止する。
「これは!?」
「魔法学園の教師と魔術師ギルドの職員による援護射撃だよ。馬鹿みたいにこっちを追って、無防備な横腹晒してくれてんだ。狙うなって言う方が無理な話ってね!」
離脱していった暗殺者ギルドのメンバーの役目は、勇輝たちがここに辿り着くまでに迎撃準備を整えること。次々に霧散していく敵の姿を見て、勇輝は走る速度を緩めた。
「おっと、止まるんじゃないよ。下から這い上がってくる奴もいるんだ。もう少しだけ、囮役をしてもらうからね」
「囮、というのは納得いきませんが、無事に敵を殲滅できそうですね」
女性に促され、勇輝は再び前に向かって走り出す。だが、その瞬間、背後から貫くような視線を感じて怖気が走った。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




