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逃走デートⅤ

 まだ他にも行ってみたいところはあるので、勇輝と桜はマフラーだけを購入し、後日、改めて他の服を見に来ることを店員に約束して店を出た。

 扉が閉まったところで、桜が不意に空を見上げる。


「かなり曇ってるから、もしかすると雪が降るかも」

「そういえば、精霊の休息日はよく雪が降るって言ってたな。前日に降り始めてもおかしくないか」


 灰色と黒色の中間。今にも雲が落ちてくるのではないかと思う程の重々しさを感じさせる。

 道に並べられた聖夜のダンジョン産のランタンが、もうすぐ降り出すぞ、と言わんばかりに明るく輝いていた。


「そう言えば、雪が降るとランタンの明かりが強くなるんだって。夜に見るとすっごく綺麗らしいよ」

「じゃあ、夜は街が一望できるような場所に行かないとな」


 メインストリートを歩きながら、勇輝は頭の中でプランを再確認する。

 ふと視線を横に向けると、桜がまじまじと勇輝の顔を見上げていた。


「勇輝さんって、意外とロマンチック?」

「いや、そんなつもりはないけど……どうせ見るなら最高の景色を、って思うのはおかしいかな?」


 心の中では桜をどうやったら喜ばせられるかを考えているだけなのだが、そこから漏れ出た言動が桜の琴線に触れたらしい。


「ううん、そんなことない。私も似たようなことを考えてたから。夜が近付いたら二人で探してみるのも良いな」

「そうだな。光に照らされた道を歩き回るのも面白そうだ」


 勇輝は目の前に広がるメインストリートの店の至る所が光に照らし出され、道行く人々の影が幾つも横切る光景を想像する。元いた世界でよく見た色とりどりのイルミネーションに比べれば雲泥の差かもしれないが、それはそれで心が暖まる感じがした。


「とりあえず、少し早いけどお昼ご飯にする? これだけ人がいると混雑しそうだから」

「この前は桜と初めて行ったお店だったな。今度はケーキとかを一緒に食べた店に行ってみる? あそこ、スイーツ以外にも昼食として食べられるメニューがあったはずだし」

「あ、それいいかも! 和の国に帰ってた間に新作が出てると思うから食べてみたい!」


 やはり甘い物には目がないのか、桜の表情が一層明るくなる。ランタンの光など霞んでしまう程の眩しさに、勇輝も自然と顔が綻んだ。


 ――――ズズッ……。


「――――ん?」


 ふと、視界の端のランタンが作り出した影が大きく揺れたように見えた。

 そちらに顔を向けるが、特に何かがあるわけでもなく、勇輝は歩きながら首を傾げる。


「どうしたの?」

「いや、ランタンの数も相当多くなってきたなって思ってさ。ほら、道端だけじゃなくて、水路を挟んだ向かいの建物に縄を通して、そこにまでランタンをつけてる」

「店の前に置くのにも限界があるから仕方ないけど、ここまでやるのは少しやりすぎなんじゃないかな?」


 王都の人間が楽しんでやっているのだから、勇輝たちがとやかく言うことではないのだが、傍から見るとやり過ぎ感は否めない。ただ、初めて見る祭りの前日の様子に戸惑いを隠せない部分があるのは確かだった。

 これらのランタンが一斉に光を放つ様子は幻想的で壮観であることは間違いない。夜が来るのが楽しみで、待ちきれないのは大人も子供も同じようで、すれ違う人たちの表情はみな一様に笑顔であった。

 中には勇輝たちと同じことを思ったのか、空を見上げて雪が降って来ないかを見ているような人もいる。


「あ、あそこだ。並んでるけど、今ならそこまで時間はかからないかも」

「よし、じゃあ、あの店で良さそうかな。並んでる間に――――おっ?」


 勇輝の視線が店から上空に移る。そこには建物よりも遥か上を箒に跨って横切る三人の魔法使いの姿があった。


「何をしてるんだろう?」

「確か、空を飛ぶだけでも免許が必要で、難易度もすごい高いんじゃなかったっけ? そんなに急がなきゃいけない何かがあるのか、それとも別の何かか?」


 勇輝の中で不安が少しずつ大きくなる。何せ勇輝が知る限り、魔法使いが王都の空を飛んでいたのは、この王都に辿り着いて数日後のこと。人を同族に変えてしまうグールとい名の魔物が王都に侵入した時くらいだからだ。


「――――何か、あったんじゃないよな?」


 小さく呟いた勇輝だったが、その答えはどこからも返っては来ない。

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