推測Ⅳ
入って来た場所と反対側の壁まで歩き、あと数メートルで触れられる所まで来ると、唐突に壁の一部が消えてしまった。その先には通路があり、進んで行くと水晶玉らしきものも見える。
過去に一度、ダンジョンをクリアしたことがあるが、それは正規の方法ではなかった。しかし、今回は不正な手段は使っていないし、ダンジョンに異変があったようにも思えない。勇輝としては、ダンジョンを真の意味で初クリアしたということになるだろう。
「ダンジョンのボスを倒すと、次の部屋が元に戻るための部屋なんですか?」
「ダンジョンの規模にもよるが、基本的にはそうだな。帰還用の水晶玉が安置された部屋で、運がいいと宝箱が何個か見つかる。中身もレアなものが多い。ここでは、あまり触れない方が良いかもしれないが……」
ハリーはまだ警戒しているようで、両手で槍を握っている。一方、トニーの方は気楽そうに頭の後ろで手を組み、鼻歌交じりに先頭を歩いていた。
「まぁ、目的の物を確保して、最終階層への行き方もわかったんすから、今回の成果は上々っす。ギルド長、ボーナスくらいは出ますよね?」
「……まぁ、考えてやらんでもない」
「「え、マジ!?」」
しばらく黙った末に絞り出されたギルド長の返事に、ハリーとトニーはギルド長へと掴みかからんばかりに接近する。
「近い、近い! 冬なのに暑苦しいんだよ、お前さんらは」
「ボーナスが出るって聞いて、落ち着いていられるわけないじゃないっすか。え、どれくらい出るんすか?」
「無事に戻るまでが任務だ。そういう話は任務が終わってからだよ。ほら、前見て歩け」
鬱陶しい、と言わんばかりにギルド長は二人を両手で押し返す。ハリーはむすっとしたままだが、トニーは既に皮算用を始めているのか、満面の笑みを浮かべていた。心なしか足取りも軽く、勇輝たちからどんどん離れて前へ進んで行ってしまう。
「ほら、急ぐっすよ。ボスの後に敵が出てくることはないんすから」
「うーん、これは敵が出てくる予感……」
勇輝は思わず呟く。もはや本人も狙って言っているのではないかとさえ思えるほどのフラグの立て方に、気付けば勇輝は心刀の鯉口を切っていた。
その様子に気付いたのか、ギルド長が勇輝の肩を軽く叩く。
「まぁ、そう気を立てるな。実際、アイツの言う通り、ボスを倒した後は平和なもんだ。油断しないのは大切だがな。ハリー、お前さんもだぞ。変なところで心配性なんだから」
「いえ、ただトニーなら、トラップを踏み抜いて、その被害が俺たちだけに来るということもあり得ると思ったので」
「うーわっ、それありそうだ。やっぱり、警戒しておいた方が良いな」
そう告げたギルド長は既に短剣を握りしめていた。トニーの信用度の無さというよりも、彼の不運が何故か周りに巻き散らかされる事件か何かが過去にあったのかもしれない。
ただ、警戒しながらも進み続けた勇輝たちは、特に襲撃やトラップに引っ掛かることなく、次の部屋へと辿り着いた。残念ながら宝箱は存在せず、水晶玉が鎮座しているだけだ。
「とりあえず、これで俺の役目は終わりってことで良いか?」
「そうだ。報酬に関しては近衛騎士隊経由で冒険者ギルドに振り込ませてもらう。後はそうだな……何かあったら、例の酒場まで来てくれれば力を貸そう」
「暗殺じゃなくて、護衛的な意味合いでなら頼ることはあるかもしれないけど、あまりお世話にはなりたくないな」
ただでさえギルド名が物騒なのだ。そんな者たちと関りがずっとあると知られたら何を言われるかわからない。彼らが裏でファンメルという国や民を守っているということを理解している人は、一般的に多くないだろう。
「違いない。訪れる機会がないことを祈ってる。それじゃあ、さっさと帰還しよう。例の指輪かどうか、ヤバい品じゃないかを確かめないといけないからな」
ギルド長が手でトニーへと先に戻るよう指示を出す。上機嫌で水晶玉に触れたトニーの姿が掻き消える。念の為、魔眼を開いていた勇輝だが、特に怪しいものは見えなかった。
ハリーが続けて水晶玉に触れる。次は勇輝の番だとギルド長が促すが、勇輝の動きはぎこちなかった。
「(水晶玉の階層移動や帰還は浮遊感があって苦手なんだよな……)」
落下恐怖症である勇輝は、表情を強張らせる。しかし、いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。後ろでギルド長が不思議そうに視線を投げかけているのだ。勇輝は心の中でカウントダウンをすると、息を止めて水晶玉へと触れた。
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