推測Ⅲ
十二月のこの時期に開かれるという精霊の休息日。太陽が最も出ている時間が少ない冬至に行われるものだが、この日が十二月の二十二日になる。勇輝がいた世界でも冬至は一つの区切りとされていて、クリスマスとして馴染み深い物となっていた。家族や恋人、友人とパーティーを開いたり、ゆっくりと過ごしたりするという点も似通っている。
「(まさか、嫉妬って……!? 恋人がいるかどうか?)」
勇輝だけ有罪と叫ばれた理由。それは一部の者たちがクリスマスに抱く怨念とでも言うべきもの。特に「恋人がいない男の恨み辛み」となれば、容易に勇輝も想像がついた。
「ただの逆恨みじゃねぇかっ!?」
「うおっ!? どうした急に!?」
思わず立ち上がった勇輝にギルド長が驚いて数歩下がった。その手に短剣が素早く握られたのは、流石、暗殺者ギルドの長といったところだろう。勇輝の動きを警戒しながら、わずかに腰を落とした構えは、いつでも反撃できると感じさせる独特の圧があった。
「あっ、すいません。ちょっと、変なことに気付いたので……」
「変なこと?」
勇輝は心刀のことは隠したまま、日ノ本国での怨霊と戦ったことを例にして、今回の敵も似たような物なのではないか、と伝えてみる。
「はぁ、他人の認識による強化、ねぇ。ハリー、どう思う?」
「専門外なので何とも言えないですが、否定するには材料が足りません。ただゴーレム使いの俺からすると、意識的に魔力を流すか、魔力を気付かれないように奪うかの違いで、得られる結果は同じものかと。後はどこが起点になっているかくらいですね」
「それについては心当たりがある。何せ、ヒントはいくらでも転がっていたからな」
ギルド長は空の宝箱を指差した。
「世の中には触れているだけで魔力を奪うアイテムも存在する。俺たちの目的は本来、階層の存在の確認と危険な指輪の確保だったが、もしかすると危険なのは指輪だけじゃないのかもしれないな」
「それは、どういう――――?」
「このダンジョンで手に入れたアイテム全て。それを手に入れた人物から魔力や恨みとかって感情を本人が気付かないレベルで収集して、ここのボスに集めて強化していた。そういう考え方も可能だ。有罪の範囲も彼女や嫁の有無だけじゃあないかもしれん」
それは例えば地位や資産などの人が羨むものもあり得るのでは、とギルド長は告げる。
「いや、そうだとしてもギルド長。その場合、ギルド長は無罪って言われているので、地位も資産も女もいないってことに――――」
「だまらっしゃい! それはあれだ――――この仮面にかけてある認識を阻害する魔法で、俺がどんな存在かをアレは見破れなかったんだろう!」
「……ギルド長。無理はしなくて良いんですよ」
「本当にぶっ叩くぞ、この野郎っ!」
さらっと言ったギルド長を見て、勇輝は仮面の下に爽やかな笑顔があるのを幻視した。本当に怒る一歩手前なのだと理解し、巻き添えにならないように離れようとする。
「次の部屋の扉が出現したっぽいっすよ――――って、何をバチバチしてるんすか?」
「あぁ、さっきの敵が有罪って叫ぶ理由が女がいるかどうかかもしれないって話になってな。ほら、ここって女への貢ぎ物とかを探したり、女がいない暇な奴がよく来るだろう? だから、ギルド長も無罪って言われたのは――――ごっふ!?」
言い終える間にギルド長の拳がハリーの腹へとめり込んだ。
割と洒落にならない鈍い音と口から漏れた声に、勇輝とトニーが目を丸くする。しかし、ギルド長は一切気にせずに片手でハリーを持ち上げて、トニーへ向き直った。
「じゃあ、扉への案内を頼む。ハリーは疲れているみたいだから俺が運ぼう」
「……っすー」
トニーは何も見なかったとでも言うように、即座に踵を返す。当然、勇輝も彼と同じように言及することはない。黙って案内をするトニーの背中を追うだけだ。
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