推測Ⅱ
無言で佇むギルド長の横で、勇輝は徐々に乖離した感覚を取り戻しつつあった。
『まったく、いつも無茶するな』
「(悪かったな。余裕が無くて。だけど、お前にも原因はあるからな。さっきの転移が使えるって知ってれば、練習して上手く使いこなせたはずなのに)」
心刀の批難に勇輝が言い返す。攻撃する手段が一つ増えるだけで戦い方は大きく変わる。それを出し惜しんでいたことに、文句の一つも言ってやりたくなるのは仕方がないことだろう。
『はっ、基礎基本ができていない状態で、人が本来しない動きをしたいだなんて強欲にも程がある。威待流の技をまともにできるようになってから言えってんだ』
「(――――まぁ、それは、一理あるな)」
事実、空中で放った一撃は充分な威力ではなかった。同じ不完全な体勢であったとしても、心刀の言う基礎基本ができていたのならば、やりようは幾らでもあったはずだ。
「(でもな。お前、俺に能力について、嘘を教えてただろ)」
『……何のことだ?』
「(とぼけても無駄だぞ。お前、前に日ノ本国で呪いに変化したお婆さんと戦った時に、鞘の中へ転移できるようになった、って言ってたけど。西園寺家の洞窟で一回、鞘の中に戻ったことあっただろうが!)」
『何だ、覚えてたのか。いや、思い出したって感じの方が近そうだな。まぁ、どっちだって一緒か。理由はさっき言った通りだ。歪んだ戦い方を覚えられたら、今まで叩き込んだ技術が壊れかねない。矯正するこっちの身にもなってもらいたいね』
申し訳なさの欠片も感じさせない心刀に、勇輝は若干、イラつきを覚えるが言っていることは間違ってはいない。たかが数回しか使えない転移を頼る戦い方など、いつか命を落とすきっかけになるだろう。
「(一応、知ったからには答えてもらうぞ。どれくらいで使えるようになって、最大何回できる?)」
『お前がいる場所によってだな。最大で二回か三回かくらいだろう。俺が貯えられる魔力もそんな多くない』
「(まだ、色々と隠してそうだな。お前が魔力を貯蔵できるなんて初耳だぞ)」
『初めて言ったからな』
心刀は悪びれもせずに、堂々と言い放つ。
勇輝は一度、心刀とじっくり話し合う必要があると強く感じた。いつも夢の中で死ぬほど鍛えてくれているのは感謝しているが、それとこれとは別問題だ。お互いに意思がある以上、変なわだかまりは残しておきたくはない。
『ま、それは良いとして、さっき斬り捨てたドッペルゲンガー。なかなか、厄介な性質を持ってたみたいだな』
「(おい、話をすり替えるなよ。後でいろいろと話してもらうからな。――――で、そんなのわかるのか?)」
『一応、戦った相手を再現する力がある。直接、斬りつけちまえば、何となくだが、わかるってもんだ』
「(で、何が厄介だったんだ? あの堅さか?)」
勇輝は完全に感覚が戻るまでの間の暇つぶしにと、心刀と思念を交わし続ける。
今後、先程のドッペルゲンガーに遭遇した時のために、敵の情報を知っておくに越したことはない。「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」である。
尤も、勇輝の知るドッペルゲンガーは三種類いる。人間の胎児を素体に作られたもの、今回の異様な強さを誇るもの、そして未だに遭遇したことがない通常のものだ。恐らく、今回のものと今後遭遇する可能性は低いとは思うが、理性は不安を拭うために必要だと叫んでいる。
『怨霊yなった婆さんを覚えてるな? 日ノ本国でやり合っただろ?』
「(自分の存在を呪いそのものにして、その姿を他の村人の意識で固定してたんだっけ?)」
『あぁ、そうだ。さっきのドッペルゲンガーも誰かしらの意識が流れ込んでいたか、吸収されていたか。いずれにしても、似たような状態だった。込められていた感情も怨霊に似てるな。恨みとかに似ているが――――そうだな、嫉妬と表現する方が近いかもしれない』
嫉妬。
その言葉を聞いて、勇輝の脳裏に一つの下らない考えが浮かび上がった。
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