推測Ⅰ
心刀を鞘に納めた勇輝は、何度も深呼吸を繰り返す。
体内を駆け巡る魔力を抑制し、意識を強く保とうと己に言い聞かせた。まだ、元の感覚に戻れる、と。
「ふう、何とか倒せたな。あれ、ボスとして生み出された特殊個体のドッペルゲンガーだろ。強すぎだって……」
ギルド長が顔を扇ぐような仕草をしながら、敵のヤバさを呟く。
「さっきの敵。複数の人間に化けてたっすけど、それぞれの長所を前面に押し出しながらも、全体の能力も底上げされている感じっすね」
「あぁ、だから、あれだけの攻撃を受けても平気だったのか。途中、人間かどうか怪しい姿もあったが、あまり深くは考えないようにしたいな」
トニーとハリーも大きなため息をつきながら戻って来る。
流石の暗殺者ギルド所属のメンバーでもキツイ相手だったようだ。
「今回はお前さんがいてくれてよかった。感謝する――――って、おい、大丈夫か? 顔色が真っ青だぞ?」
「えぇ、少し休め、ば、何とか、なる」
ギルド長が顔を覗き込んでくるのがわかったが、勇輝はそこに焦点を当てるのに、数秒の時間を要した。自分に言い聞かせた通り、反応できない感覚ではないが、やはり自分の認識している景色と体を動かそうという意識にズレが生じていた。少なくとも、まともな戦闘ができるようになるには時間がかかる。
「とりあえず、ボスっぽい奴は倒したんすから、一度座って休むのもいいっすよ。その間に、この部屋に怪しい所がないか探索すればいいんすから」
「それで変な罠を作動させてくれるなよ」
「こちとら、暗殺者ギルドの所属っすよ? そんなヘマするわけないじゃないっすか」
自分の腕を何度も叩きながらトニーは笑う。対して、ハリーとギルド長は無言で彼を見つめていた。
そんなトニーは勇輝をその場に座らせて、宝箱があった祭壇のような場所へと進んで行く。
「ギルド長! 中のやつは他に何もなかったんすか?」
「あぁ、箱が二つ。ちょうど指輪が入っていそうな大きさだ」
「もう中には何もないっす。もうボスも倒したし、出口があるのか先があるのかを見てみるっすよ」
そう告げたトニーは向こう側へと飛び降りていく。
「まったく、緊張感のない奴だ。いつか足元をすくわれるぞ?」
「だから、相棒として組ませてるんだろうが。尤も、俺からすれば似た者同士だがな」
「ギルド長、それはどういう意味ですか!?」
「さあな。それくらい自分で考えな。それより、こっちの方が心配だ。あれだけの動きの変化からすると、強力な身体強化を施したようだが――――まさか究極技法を本当に使えるとは思っていなかった」
ギルド長は勇輝の背中を擦りながら感嘆の声を漏らす。
「一応、報告は上がっていたはずですが?」
「そう簡単に究極技法の使い手が、同じ場所に二人も居合わせるなんて偶然を信じられるか? 実際に見た奴はいなくて、聖女護衛部隊の黒騎士たちの会話からしか確認できていなかったんだ。仕方がないだろう」
勇輝は二人の会話をまともに認識しながら、深呼吸を繰り返す。ギルド長の手の動きに合わせて、肩を揺らしながら呼吸していると、だんだん体の感覚が戻って来た。
「もう、大丈夫……」
「いーや、まだ座ってろ。そんな顔色で言われても説得力ないぞ」
頭を何度か軽く叩かれて、勇輝は顔を縦に揺らす。気持ち悪さはないが、若干の感覚のズレはまだ感じられた。船から降りて陸に立っていても揺れているような感覚だ。
「ハリー。さっきの敵の『有罪』って言葉、どう思う?」
「彼にのみ叫んでいたところを見るに、我々三人には当てはまらない何かがあるのかと。攻撃をしたかどうかではなく、このダンジョンに入るかどうか以前の問題。本人だけが持つ経歴や性質、といったところかと」
ハリーの提示した言葉に、ギルド長は顎に手を当てて思案し始めた。
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