指輪の守護者Ⅷ
接近する敵の認識は出来ても、体が反応しきれない。
辛うじて、まだ体が動く内に決着を、と勇輝もまた前に足を踏み出す。剣先をわずかに落として攻撃を誘うと、ドッペルゲンガーが大きく右腕を振りかぶるのが見えた。
「(さっきから正直に右腕ばっかりなんだよっ!)」
何とか腕を躱すと同時にガントレットが保護していない内側を心刀で斬り上げる。刃が食い込みながらも強い抵抗に斬り裂ききれない感触を受けた。
「おらっ!」
右腕で刀を保持しつつ、左手で喉に掌底を放つ。
いくら頑丈でも己が前進に使う勢いと合わさって、ドッペルゲンガーの頭がガクリと前のめりになった。勇輝はそれを好機と見て、さらに攻撃を畳みかける。
振り抜いた右腕を天高くで反転させると同時に両手で持って斬り落とす。
「(一度斬ってダメなら、もう一撃!)」
虹色の輝きを放つ肘に、斬撃が食い込む。掌へと帰って来る感触は堅く感じるが、それでも一撃目よりは弱い。膝を抜いて体を落としながら、心刀を地面ギリギリまで振り下ろす。
すると、心刀に遅れて右腕が地面に落ちた。ゴトリ、とガントレットの重い音が響くと同時に、眩い閃光が飛び散る。一瞬で全てを燃やし尽くした花火のようなその光の奔流に、本来ならば反応できる者などいない。
だが、その輝きをものともせずに動いた者が二人いた。
「よくやった。ダメージが通るなら倒せる!」
一人はギルド長。短剣を両手にバランスを崩したドッペルゲンガーの首へと攻撃を放つ。勇輝の二連撃で腕が切断されたのを見て、一度攻撃を受けた場所が脆くなると予想したのだろう。順手に握った短剣を振り抜くと同時に、すれ違いながら逆手の短剣で追撃。そして、振り返りざまに短剣を投擲した。
「――――ッ!?」
初めてドッペルゲンガーの苦悶に呻く声が口から漏れ出る。それもそうだろう。何せ短剣が半ばまで首に食い込んでいるのだ。悲鳴の一つも上げたくなるはずだ。
急所へ突き込まれた短剣は、流石に危険と判断したようで、残った左手はその短剣の柄を握り込む。出血のない体ならば引き抜いたところでダメージは少ない。だが、片腕しかないそれを短剣に向かわせたのは完全に悪手であった。
最も近くで閃光を目にしていた勇輝であったが、それには構わず鋭い眼でドッペルゲンガーへと踏み込んでいた。奇しくも狙う場所はギルド長と同じ首。左から右への横一閃。
手首へと掛かる重みをゆっくりと感じ取りながら、左足を一歩前へと進め、体の反転の勢いで刀を振り抜く。ドッペルゲンガーの喉を切り裂くような虹の傷。ただし、それは致命傷には至っていない。
「――――シッ!!」
だが、勇輝は止まらない。左手で切っ先近くの峰を摘まむと、そのまま体当たりでもするかのように距離を詰め――――
「ゴボッ――――!?」
――――その傷口へと切っ先を突き入れた。
ドッペルゲンガーの口からは血など零れていないのだが、明らかに苦しげな様子を見せる。しかし、勇輝はそんなことに構うことなく、更に右腕を突き出した。
今まで金属でも斬りつけていたかのような感触だったのが、急にその硬度を失う。ズブリと心刀がのめり込む感触に、絶命の一撃に至ったと勇輝は確信した。
「(なっ、抜けな――――)」
心刀を引き抜いて、様子を見ようとした瞬間、抜ける様子がない。それどころか、首の短剣を握っていた左手が勇輝の方へと向くのが見えた。
どんどん体の反応が鈍くなる中、その攻撃に対処できるかは五分といったところ。更に首へ心刀が刺さることも構わずにドッペルゲンガーは勇輝へと踏み込んでくる。
「有――――」
――――ズガンッ!!
左腕が振り切られるよりも早く、その左腕が何かによって跳ね上げられた。
「バーカ。傷はつかないが体が吹っ飛ぶのは見えてたんだよ」
――――ズガンッ!!
「狙撃なら得意分野っすから、同じところに当てるのなんて朝飯前なんすよね」
ハリーによる左腕だけを狙った岩の槍の魔法。そして、それが直撃した場所を寸分違わずに石礫魔法で撃ち抜いたトニー。二人の連携攻撃で、ドッペルゲンガーの左腕は空中で光の粒子となって爆散する。
「これで――――終わりだ!」
勇輝はここぞとばかりにドッペルゲンガーの腹に蹴りを放ち、喉から心刀を引き抜いた。
空中に光の粒子が虹の橋となって弧を描き、頭部が地面に激突した瞬間、全身が左腕同様に消し飛んだ。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




