指輪の守護者Ⅵ
敵の拳が唸り声を上げて胸の前を通過する。
「――――は?」
それは一体誰の声だったか。勇輝自身かもしれないし、敵の声かも知れなかった。
ただ、明らかに勇輝は先程まで見ていた自分の視界がズレていることに気付く――――と同時に数十センチ落下した。
「痛っ!?」
足首を挫きそうになりながらも、何とか着地する。
しかし、目の前の敵は未だ健在。勇輝の立っていた位置が、いつの間にかズレていることに戸惑いを隠せないようで、腕を突き出したまま勇輝を見ていた。
「離れろ。この野郎!」
そこにギルド長の短剣が投げられる。体の中心に向かって投げられたそれは、寸でのところで避けられはしたものの、距離を取らせることに成功した。
「いつの間に位置が? それに刀も……」
勇輝の手に握られていたはずの心刀は、いつの間にか鞘の中に納まっていた。
「(まさか、これもお前の能力か?)」
『ちゃんと技術を習得するまでは黙っておこうと思ったんだが、死なれちゃ困るからな。レオ教授が言ってたこと、覚えてるか?』
「(こんな時に何だよ!? そんなの覚えているわけないだろ!)」
勇輝は怒りの籠った思念を心刀へと叩きつける。その一方で、レオ教授が言った言葉というのを思い出そうとした。
距離を取ったドッペルゲンガーは、攻撃に反応できなかったことを理解したようで、変身する様子はない。そのまま攻撃をするために、徐々に勇輝たちの方へと距離を詰めて来ていた。
「ちっ、面倒だな!」
咄嗟に勇輝がガンドを連射すると、敵はその場から跳び退き、蜘蛛のように後方へと着地する。そこにトニーの放った火球が殺到し、爆炎で包み込んだ。
無詠唱だからこそできる勇輝との即興の連携攻撃。トニーの攻撃の内の数発は確実に直撃していたはずだ。
「――――やりきれてないっすね。見た目以上に頑丈じゃないっすか? あのドッペルゲンガー」
「ただのドッペルゲンガーじゃないと見た。油断するとやられるぞ」
ハリーが警告をしながら、槍を突き出す。すると単発ではあるが、トランプのダイヤのマークのような石礫が勢いよく射出された。彼もまたトニーほどではないが、無詠唱で魔法を放てるようだ。
黒煙が立ち込めるそこに石礫が勢いよく叩き込まれる。ぶわりと煙が波打つと同時に、明らかに何かが砕けた音が響き渡った。
「ほら、やっぱりな」
「やっぱりな、じゃないっすよ。どうするんすか、アレ!」
煙の中から出て来たのは、拳で頭部を庇ったままで無傷の姿。正確には、拳部分が勇輝の魔眼では少しばかり歪んで見えていたが、肉眼ではその変化は見られない。
「こうなったら、身体強化に魔力を回して無理矢理ついていくしかないか」
「奇遇だな。お前さんと同じことを俺も考えてたところだ。何秒でケリをつける?」
「そうですね……一分以内で」
身体強化に魔力を全力で回すことによる魔力枯渇が心配なのではない。そのあまりにも早すぎる動きに脳がついて行こうとして、時間感覚が狂ってしまう。それを避けるためには可能な限り、速攻で倒す必要があった。
ゆっくりと煙の中から歩み寄って来るドッペルゲンガー。それに対して、勇輝とギルド長も近づいていく。
「流石に首でも斬り落とせば死ぬだろう。日ノ本国の刀の性能を見せてくれよ」
「言われなくても! ――――魔力制御・最大解放」
魔力を堰き止めていた弁を全開にし、通常を遥かに上回る魔力が体中を駆け巡る。
同時に、敵の動きを警戒していた魔眼がゆらりと自分に向かって接近する黒い光を捉えた。顔面に向かって伸びて来るそれを、勇輝は体を屈めながら進行方向を右にずらすことで避けることに成功する。
遅れて、勇輝の顔面があった所にガントレットが突き出された。そこを好機と抜刀しながら、肘辺りを切り上げる。
「くっ!?」
しかし、ガントレットは肘辺りまでを覆っており、切断するには至らない。舌打ちをして、八相の構えで振り返った。
「おらっ!」
勇輝と時間差で新しく装備した短剣を手に、敵へと襲い掛かるギルド長。その短剣捌きは目を見張るものがあり、通りすがり様に前腕の内側、胸、首の三カ所を斬りつけていた。
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