指輪の守護者Ⅴ
勇輝は箱に触れるのも躊躇われる。そんな気持ちで勇輝が見下ろしていると、ギルド長はおもむろに短剣を持ったまま宝箱の中に手を突っ込んだ。
箱の下に刃を滑り込ませ、そのまま上に弾く。
「素手で触ってヤバそうなら、触らなければいいってことよ!」
曲芸師のように空中に浮いた箱を、魔法の鞄の口を開けて直接入れてしまう。それをもう一度繰り返し、鞄を閉じると、ハリーたちの方へと振り返った。
「さぁ、これで相手の反応は?」
そこに広がっていた光景は、敵と膠着状態に陥ったハリーたちの姿だった。正確には、まだハリーたちに分があるようだが、敵も壁を背にして多方向から袋叩きに合わないように警戒している。
「消えてませんね」
「やはり、あの敵を討伐しないとだめっぽいな。――――っていうか、何でギルティ喰らったんだ?」
「俺が聞きたいくらいだ! とりあえず、二人を助けないと……!」
その時、敵の顔が勇輝の方へと唐突に向いた。
「有罪!」
その言葉と共に、敵の纏う靄が一層濃くなる。だが、それで強化されるとして、その変化を待つほど勇輝もお人好しではない。
即座にガンドを放ち、絶命させようとする。
「――――ぎ、るてぃっ!」
その攻撃は呆気なく敵の脇腹を抉り、膝を着かせた。魔眼に映る靄も風船が萎むように一気に薄れていく。
「おいおい、マジっすか。これじゃあ、俺、お払い箱っすよ」
「バーカ。お前はお前でやれることがあるんだから、下らないこと考えてんじゃねえ」
落ち込むトニーをハリーが小突く。どこか兄弟のようなやり取りに微笑ましく思っていると、崩れ落ちた敵がわずかに脈動したのを魔眼が捉えた。
「――――ん? まだ何か」
そこまで口にした勇輝は、咄嗟に刀を自身の前に翳していた。
鈍い金属音が響くと同時に、額に痛みが走る。二、三歩、後ろによろけると、ギルド長が短剣を勇輝の目の前の存在に振るった。
「こいつ、まだ変化を――――!?」
脈動した瞬間、体を一気に縮小した敵は、目にも留まらぬ速さで勇輝に殴り掛かった。
短髪で背丈は勇輝と同じか少し低い。両手にはガントレットをつけているようで、勇輝が翳した心刀の刃の上から殴り抜いたらしい。
結果、勇輝の額に心刀の峰が勢いよくめり込み、血を流すことになった。
「いってぇ……」
ズキズキと額が痛み、鼻の横や瞼を血が伝っていく。そんな勇輝の顔面にギルド長がポーションを振りかけた。
「さっさと立て、どうやら敵さんも本気を出して来たらしい。かなり素早いぞ」
床や壁など関係なく、縦横無尽に部屋を飛び回るそれは、ハリーの作り出したゴーレムの攻撃など止まっているかのように掻い潜って行く。
「ちっ、これならゴーレムなんていらねえ。操作に気を使うだけ無駄だ」
ハリーが槍の穂先でゴーレムを叩くと、電源が切れたロボットのように膝から崩れ落ちる。
「ありゃ、面倒っすね。弾幕張ろうにも、部屋が広くちゃ効果も半減ってね!」
トニーが無詠唱で火球を何十発も同時に放つが、敵はそれを掻い潜る。そして、再び勇輝へと接近した。
手の甲で血を拭った勇輝は、ガンドを連射して接近を阻止しようとする。しかし、それすらも掻い潜る敵に思わず戦慄した。
「(こいつ、速過ぎるっ!)」
魔眼の先読みを以てしても見切れない。そんな中で勇輝は何とか当てて見せると意気込んで、刀を思い切り斬り上げた。
「(――――しまった!)」
だが、それを紙一重で躱し、振り切った心刀の向こう側からは勢いよく右拳が顔面へと迫っていた。よく見ればガントレットの先は微妙に尖っており、まともに喰らえば皮膚に穴が開くのが容易に想像できる。
せめて少しでも手首を固定しておけば、切先が敵へと向く形になり、突きを繰り出すという選択肢もあった。しかし、急ぐあまりに手首を完全に伸ばして、勇輝は死に体だった。
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