指輪の守護者Ⅲ
爆炎が靄を焼き、黒煙が代わりにその身を包む。
「くそっ、全然効いてねぇ!」
普段から魔法を使い慣れているからだろう。トニーは即座にそれが有効打になっていないことに気付いたようだ。
「だったら、俺が吹き飛ばす!」
勇輝が黒煙を突き破って現れた敵にノータイムでガンドを三連射した。最初の二発で盾を、残りの一発で剣を弾き飛ばすと、転がるようにして勇輝から距離を取り、靄はまた別の姿へと変化していく。
「こいつ、また!」
「トニー、効きそうな属性を探せ! 今の内に、弱点を見つけるんだ!」
ハリーが槍を構えたまま表情を強張らせる中、ギルド長はトニーへと命令を下す。
万が一、来年もこのダンジョンが現れる場合には、攻略法がわかっていた方が楽だからだ。そして、どんな場合であろうとも一番安全なのは近付かないこと。そういう意味で、どの属性の魔法が弱点なのかを探るのは非常に合理的だった。しかし――――
「ダメだ。火も水も土も風も、どれも同程度にしか効いていないっすよ」
今度は片手に斧、もう片方に円形の盾を持った姿で敵は勇輝に襲い掛かる。勇輝よりも散々、攻撃をしているトニーがいるにも拘わらず、未だに敵のヘイトは勇輝に向いたままだ。
「いい加減、しつこいっ!」
痺れを切らした勇輝は刀で斧の柄の部分を斬り飛ばす。同時に腕をシールドごと叩きつけようとしてきた敵の攻撃を足の裏で受け止めながら背後へとバク宙で大きく跳び退った。
着地と同時にガンドを放つとシールドが弾け飛び、敵の腹のど真ん中に風穴が開く。
「やったか!?」
「おいおい、そういうのは敵が復活とかするから、声を出す前に首でも落とせって教えたじゃないの」
ギルド長が呆れた声でハリーを注意した。
そして、その言葉は残念ながら現実となる。体を痙攣させながら、敵の姿は少しずつ巨大化し、腹の穴もすぐに塞がっていってしまう。
立ち上がったその背は三メートル弱、体も筋肉質なものに変わり、素手だけで床を叩き割ってきそうな威圧感があった。
「おい、アレ。お前の十八番……」
「あんなのを俺のと一緒にしないでください、ギルド長!」
悲壮な叫びを上げたハリーは何を思ったのか、一歩前に足を踏み出した敵と勇輝の間に割り込んだ。
「『地に眠る鼓動を以て、その意を示せ。汝、巨石の中より産声を上げる者。暗き地の底より這い出でて、我が前に立ち塞がる物を蹂躙せよ』」
――――カツカツカツッ!
三度、ハリーが槍で地面を小突く。すると地面が急に盛り上がり、ちょうど敵と同じくらいの人間のような姿で相対した。
「ゴ、ゴーレムっ!?」
勇輝は思わず、その名を口にする。
本来、ダンジョン内で敵として立ち塞がる岩の魔物であるゴーレム。今、それがハリーの指示の下、マッチョな人影に殴り掛かった。右の拳は綺麗に顎を捕らえ、たたらを踏ませる。
ただし、敵もさるもの。そのまま、半歩下がった状態から腕を振りかぶってゴーレムの胸へと拳を叩きこんだ。
「やばっ!?」
見た目よりもその威力は高く、岩のゴーレムの胸の厚み三分の一を砕いてしまう。しかし、ハリーには焦りの色は一切浮かんでいなかった。
「おい、トニー。ここからは、いつも通りのやり方で戦うぞ!」
「おいっす。わかったっすよ、兄貴!」
――――いつものやり方?
勇輝が疑問に思っていると、ゴーレムの砕け散った胸部が浮かび上がり、元に戻って行く。いや、そればかりか、床の砕けた一部を巻き込んで、少しだけ大きくなっているようだ。
「うん? これ、どっかで見たような――――」
――――スパアアァァァンンッ!
勇輝が疑問を口にするよりも前に、ゴーレムに殴り掛かろうとした敵の首が横に折れ、体が大きく傾いた。遅れて、物凄い突風が吹き荒れる。
「俺がバランスを崩させて――――」
「俺のゴーレムが殴り抜く。そう簡単にこのコンボから抜け出せると思うなよ! このドッペルゲンガーマッチョがよぉ!!」
トニーとハリーがそれぞれ離れたところで声を張り上げる。その最中、勇輝は信じられないものを見るような目で、二人を交互に見た。
「(この人たち。聖女護衛の任務の時に襲撃のフリをしてた人たちだ!)」
わざと聖女たちに攻撃を加えることで、他にも狙っている勢力がいると敵に勘違いさせて、手を出させにくくする役目を負った護衛部隊。その際に現れた際限なく再生と増幅を繰り返すゴーレムと遠距離狙撃の風の魔法は忘れたくても忘れられるはずがなかった。
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