指輪の守護者Ⅰ
目の奥に焼き付いた残像が消え、勇輝は少しずつ瞼を開ける。
既にランタンの光は収まっており、目の前には何もない通路があるだけだった。
「参ったな。これでは前に進むしかできない」
ハリーの呟きに振り返ると、そこには進むべき道は存在しなかった。行き止まりの時と同じようにただ壁だけが存在している。
「じゃあ、ここからは腹を括って、このダンジョンを攻略するしかないってことですね」
「そういうことっすね。でも、俺の予想だと、このダンジョンの終わりは近いと思うんすよね」
トニーは指輪を弄りながら、通路の先を見る。
真っ直ぐ続いている通路だが、その先には明るい光が見えており、部屋らしき存在があることが窺えた。
「まさか、ボス部屋か? もし本当ならば、例の指輪も……?」
ギルド長はトニーの横に並んで、通路の先を警戒する。
「今までに生還した冒険者は、そこまで強い人たちではなかったはず。そこまで警戒をする必要は――――」
「油断大敵だ。そうやって帰って来た奴の全員が死ぬだけでなく、その伴侶や恋人も死んでいるんだぞ。呪詛のように目に見えない何かが襲ってくることも考えておけ」
ギルド長は勇輝に視線を向けると、顎で前に出るように促す。
「お前さんの出番だ。そういったものも見えるかもしれないんだろう?」
「日ノ本国では見ることができましたからね。多分、大丈夫です」
ランタンをハリーへと預け、勇輝は前へと進む。心刀の鯉口を切り、右手にはガンド用の魔力を集中させた。
「さっさとこのダンジョンを攻略しましょう。そうすれば、今年からは何の心配もなくギルドの皆さんも過ごせそうですからね」
「来年からは魔術師ギルドのポーションが売れ残るだろうよ。胃が痛くなる奴が減るだろうからな」
ギルド長に背を叩かれながら、先頭に立った勇輝はトニーと共に歩き出す。
「敵がいたらすぐに中へ入って、俺と兄ちゃんで集中砲火。ボスの場合、遠距離攻撃手段をもってることもあるっすから、通路で戦おうとするとスノーマンと違って倒し切れずにやられるっす」
「まずは広い所で回避できるようにってことですね。その後は?」
「臨機応変に。俺と同じように魔法に専念してもいいし、その剣で戦ってもいいっすよ。多分、兄貴がどう出るかで戦い方も変わってくるっすから。っていうか、兄貴、『アレ』は使えるんすか?」
トニーが問いかけるとハリーは当然、と頷いた。
「ばーか。ちゃんと前の階層でお前らが部屋で戦ってる時に試しておいた。他のダンジョン同様、問題なく使える」
ハリーが自身の槍を何度も叩く。勇輝はその動きを見て、目を丸くした。
「もしかして、それって槍に見えますけど――――杖?」
「あぁ、魔法の能力を増幅させる剣があるんだ。その槍バージョンがあってもおかしくはないだろ。最近じゃ、飛ぶための箒に代わって、飛べる杖っていうのも売ってるって話だ。何が出て来てもおかしくはないと思っとけ」
そんな話を続けていると、通路の終わりが見えてくる。やはり、大きな部屋のようで、奥の方にはこれ見よがしに宝箱が安置されていた。
敵の姿はなく、既にボスを倒した後の部屋に通された雰囲気すら感じさせる。
「ボスがいないダンジョン、ってありですか?」
「場合によってはある。ただ、俺の知っているダンジョンの雰囲気からするに――――何か出るぞ」
ギルド長は警戒を緩めないよう忠告する。部屋に踏み入れた瞬間にボスが実体化することもあれば、宝箱を開けることが出現するきっかけになることもあるという。
宝箱を大量に出現させる代わりに、ミミックも大量に仕込むダンジョンだ。それくらいのことはやってきてもおかしくはない。誰もがギルド長の言葉に納得する。
勇輝たちは部屋の手前で一度立ち止まり、お互いに顔を見合わせる。全員が頷いたのを確認して、勇輝とトニーがヒカリゴケとは違う光に包まれた部屋へと足を踏み入れた。
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