ホワイトアウトⅦ
「――――で? 桜としては、本当にそれでいいのか?」
勇輝が聖夜のダンジョンに潜っている最中、桜は寮の自室でマリーに詰問されていた。
「うん。勇輝さんなら、きっと約束を守ってくれると思うし」
「あー、もう、そうじゃないんだって。精霊の休息日までの三日間は、恋人同士がお互いの愛を確認しあう期間なんだって。あたしの親なんて、見ているだけで口から砂糖が溢れ出るくらいべったりなんだぜ?」
マリーは何度もテーブルに手を叩く動きをしながら、桜へと詰め寄る。
「お前ら、自分の国にいる間にくっついたんだろ? だったら、難しいことは国の偉い奴に任せておけばいいんだって。あたしらの国のことはあたしらの国が何とかするべきだ。いくら近衛騎士のお偉いさんだろうが、そこを譲ったら国が成り立たないんだよ」
「マリー、話が、ズレてきてる」
アイリスのツッコミにマリーは自分の頭を掻きながら椅子に座る。大きくため息をついた彼女は、机に肘をついてトーンを落として話し出した。
「あのさ、少しは勇輝に怒ってもいいと思うぜ。あたしたちとは違って、家族のいる国を出て来たんだろ? 魔王のことが心配とかもあるかもしれないけどさ。何か勇輝に関することで、こっちに来るのを早めたんじゃないのか?」
マリーの鋭い指摘に桜は心臓が跳ねるのを感じた。
この世界に来てしまった勇輝が元の世界に戻るための方法を探す。可能ならば、行き来できるようになれば良いという話を二人でしたことがある。
ただ、それはあくまで二人だけの話。勇輝がそもそもこの世界の住人ではないことを知らないはずのマリーが、勘だけで何かあると察していたことに驚きを隠せないでいた。
「――――で、肝心の本人は、そんな桜を放ってダンジョンに潜り続けていると来た。友人として、とっちめてやらないと気が済まない」
「私の、出番?」
アイリスが座ったまま、空中を飛んでいくかのような姿勢になる。マリーが身体強化でアイリスを放り投げるのは、今思えば、勇輝との初対面で繰り出した技であり、勇輝が苦手とする行動でもある。ある意味でダメージを与えることには成功するに違いない。
「大丈夫。私は私の意志でここに来たの。それに勇輝さんとは、明日、一緒に街を巡る約束もしてるから……」
「そう簡単に解決できるか? いくら勇輝でも難しいと思うぜ。だって、近衛騎士隊長を伝令に使ってなんて、もうそれができるのは王族とかギルド長クラスくらいじゃん。絶対、ヤバい依頼だろ。実際に、一週間もダンジョンに向かってるんだ。それで解決しないって、心配になるのも当然だって!」
「どうだろう。いつも寒そうにはしているけど、怪我とかはしていなかったから」
桜は昨日の勇輝の帰ってきた様子を思い返す。手を擦りながら部屋に入って来た勇輝の手は冷たくなってはいたが、傷一つない状態であった。
ギルドでロジャーにコートを無理矢理交換させられて、温度調節機能しかついていない物を着ているということも聞いていた。だから、コートにほつれや傷、穴がないことを桜はずっと確認していたが、一切、そのようなものはなかった。
「もしかすると、何かアイテムを探しているのかも。聖夜のダンジョンは、宝箱がいっぱい出るから」
「まさか、聖女様関連のアレ、まだ続いてるのか? 流石にもう終わったと思ってたけど」
聖女の為に何かしらの貴重なアイテムを献上したら、報酬を出すというお触れがあった。それが撤回されたという話は出ていないらしい。
「そういえば、勇者の話はどうなったか知ってる?」
「あぁ、それなら、王様と聖女様で話し合いが平行線だったから、聖教国の偉い人に手紙を送って云々って、オーウェンが言ってた。言われた当の本人は、黒騎士部隊と街中でおいかけっこしてた時もあったな」
「……大変そうだね、マックスさんも」
魔王を倒すための勇者と聖女に言われたマックスは、それを拒否。どうやら、それは今も続いているらしく。国王を悩ませているのだと、マリーは言う。
「まぁ、これから忙しくなるのは目に見えてるんだ。休める時に休み、遊べる時に遊んでおかないと後悔する――――ってことで、勇輝は今日も帰って来るのが遅いと見た。それなら、今日はあたしたちだけで街に繰り出そうぜ」
「え? えっ!?」
「ほらほら、上着を着て、早く支度する。桜に紹介しておきたい店もあるんだって!」
唐突なマリーの変化について行けず、桜はアイリスを見る。すると、アイリスは屈託のない笑みで桜を見ていた。
「大丈夫、悪いようには、しない、よ?」
「二人とも何をするつもりなの!?」
戸惑いながらも桜はマリーとアイリスに部屋から連れ出されることになった。そんな彼女たちの後ろを何人かの影が追っているとも知らずに。
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