ホワイトアウトⅥ
すぐに後ろにいた三人が寄って来て、縄の束を持ちあげる。
「じゃあ、そっちは任せた。後は変な冒険者に絡まれるなよ?」
「ギルド長。時間があまりないので早く行った方が良いですよ? ほら、前を見てください」
小柄な女性が人差し指で前を示す。すると、勇輝たちを待っていたかのように部屋の中に雪が降り始めた。
「ヤバい! すぐに吹雪始めるぞ。突撃だ!」
「はやっ!?」
まるで初めて雪を見た犬のように、大はしゃぎで部屋の中へと走って行くギルド長。とても暗殺者ギルドを纏めている男には見えない。
「色々と思うところがないわけではないが、絶好のチャンスだ。ほら、お前の分のランタンだ。持っておけ」
ハリーが取り出したランタンを受け取り、勇輝は背後の三人に礼を言って進もうとすると、腰に巻かれた縄が張って引き止められる。
驚いて振り返ると、女性がコップを一つ、人差し指の先に乗せてバランスを取っていた。
「桜って子。アンタの彼女なんだろ? 明日は何かプレゼントの用意できてるの?」
「うっ、何も、してないです」
「まったく、男って言うのは行き当たりばったりが多すぎるのよ。ほら、後でこのメモ、読んどきな」
そう告げた彼女はコップを上に放り投げると、その間にポケットに手を突っ込んで掌に収まる大きさの小瓶を勇輝に投げてよこす。キャッチした勇輝が中を見ると、何やら丸めた紙が詰めてあった。
「さっさと解決して、その中身を見ておきな。魔法学園外でのあの娘の護衛は、きっちりギルドメンバーがやってるから――――」
「兄ちゃん。そろそろ本格的に吹雪いてきたっすよ」
最後まで聞こうと思っていたが、トニーに肩を掴まれて急かされる。勇輝は訳も分からずお礼だけを言うと、部屋の中へと駆け出した。
――――ボッ!
部屋に足を踏み入れた瞬間、ランタンの中の魔石が輝きを一気に増す。前方にはギルド長とトニー、背後にはハリーのランタンが輝いていた。
「なるほどな。部屋が吹雪くことなんて昔っからわかってることだから、冒険者がこの大部屋に踏み入れるのは稀。他の部屋で吹雪いたとしても、ランタンが反応する前に外に出るか。袋の中に仕舞いこんでいて、気付かないってことか」
「その吹雪に巻き込まれて、偶然、あそこに辿り着いた人たちだけが、次の階層に辿り着けた。そう考えると、攻略者が少ないのも情報が出回らないのも頷けますね。何せ、ランタンがあれば行けることはわかっても、この部屋のどこに階段があるかはわからないんですから」
やがて勇輝たちは立ち止まったギルド長に追いつく。
「確か、トニーが立っていたのはここらへんだったな。まずは誰から行く?」
「もちろん、俺っすよ。近距離から長距離まで、魔力があればいくらでも対応して見せるのが、俺の持ち味なんすから」
「では、こうしよう。トニー、ハリー、そして君だ。俺が殿を務めよう」
そうギルド長が言うや否や、トニーが勇輝の肩を叩く。赤い光が見える場所はどこなのか、と。
勇輝はすぐに目の前の地面を指差した。ギルド長がいる場所から五メートルも無い場所に、その光はある。
するとトニーはランタンを前にゆっくりと進んで行く。そして、赤い光に満ちた正方形の中に入った瞬間、そこから赤い線が地面に伸び、大きな魔法陣を描き出した。
「まさか、これは転移系の――――!?」
トニーが体を仰け反らせるが、一歩引く間もなく辺りを閃光が包み込んだ。
目の奥を焼くような光の奔流に、勇輝は思わず右腕で顔を庇う。同時に自分の腰に巻かれていた縄の感触が無くなったことに気が付いた。
それを左手で確認しつつ、そのまま心刀の鞘へと触れ、鯉口を切る。目ではなく、耳から捉える音に集中し、ハリーたち以外の存在がいないかを探った。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




