ホワイトアウトⅤ
勇輝の脳内でアイリスが放った何気ない言葉が再生される。
――――これ、雪が降ると、すごい光って綺麗。精霊の休息日はいつも雪が降る。
雪が降るとランタンの魔法石の輝きが増す。それは言い換えると――――
「(まさかホワイトアウト状態のこの部屋に、ランタンを持ってあそこまでいくことが条件!?)」
『逆だ逆。ホワイトアウトに巻き込まれた奴が、ランタンを持ってて偶然気付いた方があり得るだろう? 何せお前にしか赤い光は見えていないんだからな』
心刀の言葉に勇輝は、なるほど、と納得する。
ホワイトアウトに巻き込まれても、ハリーのような鞄を持っていない以上、ほとんどの冒険者が明るくなるランタンに気付くことができる。
だが、気付いたとしても彼らが考えることは、部屋から一刻も早く脱出すること。壁際を歩いたりすることはあっても、わざわざ部屋の中央方向に向かう者は少ないだろう。
心刀と交わした会話をハリーへと伝えてみると、彼は唸り声を出しながらトニーがいる場所を睨む。
「ホワイトアウトになるまで待つ、か。長時間、部屋の中に居座った場合の挙動については調べたことが無い。スノーマンが急に出現したり、囲まれたりしなければいいのだが……」
先日にスノーマンの異常な出現を目の当たりにしている手前、ハリーが警戒するのも無理はない。
そんなハリーの様子を不審に思ったのか、トニーが全力疾走で戻って来る。
「なんすか、なんすか? 俺、また何かヘマやっちゃいましたか?」
「いや、ホワイトアウト中にあそこでランタンを持っていれば光が強くなる。つまり、ギミックが発動するんじゃないかって話になったんだ」
ハリーの言葉を受けて、トニーは、ほぉ、と頷く。
「いいんじゃないんすか? 言っていることは的外れな感じではなさそうっすよ?」
「ばーか。論理が通っていても、体力的に大丈夫かって話だよ。寒くねえのか?」
「余裕っすよ。何の為に、この服着てると思ってるんすか? 俺たちが来てから、ホワイトアウトがあったのも正午の一回くらいで、これから起こる可能性は高いっすから」
肩をぐるぐると回すトニーに、ハリーは呆れた表情を浮かべる。
「仮に次の階層が見つかったとして、俺たち三人で――――いや、一人がここに残ることを考えると、最大二人だな。そんな少人数で次の階層に行っても大丈夫かの保証ができないぞ」
腰に手を当てて、却下の意志を示すハリー。そんな彼に勇輝は軽く手を上げて考えを伝える。
「一応、俺もトニーさんも魔力は回復できていますし、火力については御存知でしょう?」
「そうだとしてもだ。下に降りて戻って来られないとかイレギュラーはつきものだろう。俺も今は同じパーティなんだ。降りるなら俺も行くぞ。お前らにはない特技が俺にだってあるんだからな」
お互い妥協点を探ろうとしていると、背後の通路から拍手の音が木霊して来た。何事かと三人が振り返ると、そこには真っ白なマスクを被った黒いローブの男が歩いてくるところだった。
「ギルド長っ!? どうして、こんな所に!?」
「声が大きいって! こんな格好してるんだから、どこのギルド長かなんて一発でバレるだろうがっ!」
早足で近づいて来ると、ハリーの頭に持っていた槍の柄で叩く。ダメージはなかったようだが、ハリーは申し訳なさそうに頭を擦った。
「話は聞いてた。俺たちも何人かで調査をしていて、お前さんらがどんな感じか見に来たんだが、面白そうなことになってるみたいじゃないか」
ギルド長の後ろには、勇輝を酒場に案内した三人組が立っていた。あの時とは違い、それぞれが怪しさを感じさせない服装になっている。
「上の見張りは彼らに任せる。それで俺もお前さんらと一緒に着いて行けば、四人で安全ってわけだ」
「いや、言っていることはわかりますが、何かあったら……」
「んなことは俺より強くなってから言いやがれ。ほら、つーわけで、ホホイのホイッと」
そう言いながら、ギルド長はいつの間にか取り出した縄を勇輝とハリー、そして、己自身の腰へと巻き付ける。あっという間に縛り終えた縄の束をドサリとその場に落とした。
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