降って湧いた休日Ⅲ
逆にアイリスは興味をもったようで、マリーを避けてじっと刀を見つめる。
「インテリジェンス・ウェポン?」
「意志を持った武器の総称だな。この場合は、インテリジェンス・ソードの方が、より正しいけど」
アイリスはより近くで見ようと体を乗り出すが、マリーの手によって元の位置に戻されてしまう。
「ふーん。つまりは喋る剣で、いつでも鞘に戻って来れる能力がある、と。別に呪われているとかじゃないんだよな?」
「あぁ、そんなわけ――――いや、やっぱ呪われてるわ。こいつ」
忘れかけていたが、夢や幻で今まで戦った相手を見ることがある。慣れてしまったせいか、一応、そのカテゴリーは呪いの一種だったことをすっかり忘れていた。
『安心しろよ。流石に、仲間がいるところでは、無駄にそんなもの見せるつもりはないからな』
「逆に言うと、必要なら見せるってことかよ」
『さぁ、どうだろうな?』
「刀の癖に、相変わらず偉そうな奴だな」
中指の関節で軽く小突きながら、勇輝は苦笑いする。その幻や夢のおかげで自分の技能が引き上げられた。それで生き残れているという事実もあるため、感謝している部分もある。
「さて、歓談中悪いが、少しいいかな?」
レオが立ち上がり、右手にチョークを持った。勇輝が返事をすると、黒板に彼は文字を書きこんでいく。
「転移、と一口に言ってもその形態はさまざまである、と俺は考える。一般的に言われているのは、瞬間移動系。或いはゲート系だ」
「ゲート、ですか?」
「あぁ、本人と移動先までの距離に関係なく、場所が切り替わる。ドアを開けば、そこには別の世界が広がっていました。そういった類の物だ」
更にレオは一つ、二つと書き出していく。
「似たような物に高速移動系がある。これは読んで字の如く、俺たちが見えない速度で移動をしているという考えだ」
「でも、そんなに速く動いたら、その進路上にいた人が吹っ飛ぶんじゃ?」
吹っ飛ぶどころか、ほぼ確実に死ぬだろう。音速で数キロの鉄の塊がぶつかって生きて居られるのならば、もはやそれは人ではない。
「んー、それにもいろいろあってな。解決する手がないわけじゃない。転移する物質の形を別のものに変化させるとか、な。まぁ、それは説明が面倒だから、放っておく。一番、ややこしいのが、次の『概念系』だ」
ぼさぼさの金髪が搔きむしられることによって、さらに爆発的なものへと変化していく。それを気にすることなく、レオは勇輝に告げた。
「これは『そういうものだ』としか言えない。世界、神様が定めたルールのような物だ。『どんなに腕力が足りなくとも、投げれば必ず敵に当たる』。『当たれば、必ず対象は死ぬ』。そう言った決まりだ。どんなに俺たちが魔法を研究しても、解明できない壁でもある」
チョークを置き、レオは勇輝の心刀を指差した。
「君のそれが転移する際に、俺の魔力で覆ってみたが、わずかに魔力への干渉を感じた。ただ、残念ながら、そこから先を推測するだけの時間も材料も不足している。悪いが、俺が伝えられるのはここまでだ。何か思いついたら、話せることが増えるかもしれないな」
「そうですか。ありがとうございます」
「あぁ、最後にだが、これは転移魔法に関わるのならば、俺からの課題として、一つ問題を出しておこう」
思い出したようにレオは勇輝にニヤリと笑みを浮かべる。それは悪戯心と言うよりは、好奇心に満ちた何かであった。
「物が転移した時、動いたのは物か、それとも世界か。一体どちらだと思う?」
「そんなの決まってんじゃん。勇輝の刀だろ、動いたのは」
「まぁ、そうなんだが。俺が言いたいのはそこじゃないんだよ」
レオは苦笑いしながら、背後の黒板の文字を消していく。
勇輝はレオの言葉の真意がわからずに顔を顰めた。
「さぁ、他に質問は?」
「あ、じゃあ、私が――――」
今度は桜が、自分の式神を通して発動する魔法に関して、質問を始める。魔法基礎理論の授業の教授であるが、個別の魔法技能相談会の様相を呈してきていた。
そこから、約二時間ほどのやり取りを行った後、机に突っ伏したレオに感謝して、勇輝たちは教室を後にした。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




