降ってわいた休息Ⅱ
とりあえず、最前列に座った勇輝たち。勇輝以外は教科書を出しながら、何を聞こうか話し始めたので、勇輝もどうしようかと内容を考え始める。
「(そういえば、レオ教授って、色々な論文を書いてるんだよな。説明もわかりやすいし、もしかしたら、アレもわかるか?)」
勇輝はこの世界の住人ではない。その為、自分が住んでいた元の世界へと戻るための手段を必要としている。その最も現実的な方法が、この世界における転移魔法だ。
特にその中でも可能性が高いのは、日ノ本国からファンメル王国までに一瞬で移動してみせたアメリアの転移魔法だ。
「(発動条件は『自分が行ったことがある場所』。これだけ緩ければ、俺の世界に戻ることも可能だ)」
勇輝はレオの下まで歩いていき、声をかけようとする。本から目を離したレオを視線が合うと、だるそうに彼は眼鏡をかけ直した。
「おや、いつだったかの真面目くんじゃないか。どうしんだい?」
「色々とありまして、転移魔法についての知識をご教授いただけないかと」
「――――転移魔法?」
表情こそそのままであったが、レオの目の色が変わったのを勇輝は見逃さなかった。
「ふむ、興味がないわけではないが、アメリア様の転移魔法を見たことも経験したこともないからね。せめて、実際に見てみないと机上の空論。それにアメリア様の転移魔法を軽々に話すと、国王様に怒られるかもしれない」
他国とのパワーバランスを崩しかねない魔法。それが転移魔法だ。敵の首都に軍を放り込んで良し、国防の要所に向かわせて良しのチートだ。これがあるだけで、ある程度の国は手が出せなくなる。
「では、俺の個人的な範囲で、ということなら構いませんね?」
「うん? それはどういうことだ?」
勇輝は腰から心刀を鞘ごと引き抜くと、レオに手渡した。
「和の国の刀だな。数は少ないが、何度か見たことがある」
「俺の刀は少し特別でして、転移魔法に似た能力を持っています」
「――――興味深いね。見せてもらっても?」
「では、刀を抜いて、鞘だけ頂いてもいいですか?」
勇輝の要求に、レオは頷く。
たどたどしく刀を抜くと、鞘を勇輝に手渡して刀身をじっくり見つめた。角度を変えて、外から差し込む光の当たる向きを変えていく。
「刃紋、だったかな? この境目が実に美しい。武器にしておくには勿体ないな。それで? これを使って、どんな転移をするんだ?」
「では――――心刀、戻れるか?」
勇輝の問いかけに心刀は、面倒そうに答える。
『あんまり人前で見せるものじゃないと思うんだけどな。まぁ、いいか。そらよ!』
「――――っ!?」
レオの手から唐突に心刀が消える。その現象にレオは目を見開いて、勇輝の方に振り返った。
その視線は勇輝の手に握られた鞘。そこには彼自身が先程まで持っていた刀が納まっている。レオは口を手で覆い、椅子に座り込んだ。
「レオ教授なら、この現象について何かわかるかもと、思ったんですが」
「――――もう一度、見せてもらっても?」
レオの真剣な表情に、勇輝はもう一度、心刀を引き抜いて手渡す。それを受け取ったレオは、じっと刀を見つめると、転移させるよう要求した。
「――――なるほど」
二度、その現象を観測したレオは、何かに気付いたのか。腕を組んで動かなくなってしまった。考えを邪魔するのも失礼なので、勇輝は一度、席に戻る。
「おい、勇輝。何だよ、さっきの」
「あぁ、これのことか。日ノ本国で作ってもらった、俺の刀だよ。一応、意思もあるみたいで、『俺はお前だ』とか言ってくる変な奴だ」
『変な奴とは言ってくれるな』
「うわ、しゃべったぞ。こいつ!?」
久しぶりに勇輝以外にも聞こえるように思念を飛ばした心刀。その頭に響くような声に、マリーは驚いて距離を取った。
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