スノーマンⅥ
岩の向こう側に当たる氷の音が次第に増加していく。まだ、防御は出来ているが、その強度の維持がいつまで続くかはトニー次第だ。
「そんな心配そうに見なさんなって。この程度で破れるほど、俺の魔法は柔らかくないっすよ」
「そうですけど、スノーマンも動けないわけじゃないですよね。このまま、ここに留まったら周りを囲まれて、脱出できなくなりますよ?」
勇輝は岩の槍が発動していない方から迫るスノーマンにガンドを放つ。既に滞空していた氷の礫は、先端が尖ったつららになりかけており、あと一秒でも遅れていればやられていたのは勇輝たちの中の誰かだったかもしれない。
「流石に負傷者を抱えたままここで迎え撃つのは難しい。反対側の通路まで一気に駆け抜けるぞ!」
ハリーは宣言すると同時に、倒れていた冒険者を担ぎ上げる。すぐに盾を持った男が相方を守るように傍へと着いた。
「後ろは任せろ! スノーマンだろうが、しつこい蛇だろうが撹乱して振り切ってやるっすよ。兄ちゃん、前は頼む!」
トニーが手を振ると、火球が上空に向かって浮かび上がる。それを確認して、何をする気か疑問に思いつつも勇輝は一気に駆け出した。
同時に、火球が岩の槍越しにスノーマンたちの大群のド真ん中へと着弾する。遅れて、爆音と共に白い煙が立ち上がった。
「な、何を――――!?」
「ただの爆発力重視の火球っす。それより、ほら、走った走った!」
盾持ちの男が降り注ぐ雪の塊に驚いていると、その背をトニーは軽く押して速度を上げさせる。
その更に前では、肩越しにトニーがやったことを理解し、勇輝はガンドを連続で掃射した。
「(出口までに立ち塞がる敵は、最小限の魔力で。逆にそこから大きく外れている敵は、視界を遮るように多めの魔力で爆散させる!)」
前方のスノーマン三体の頭部を吹き飛ばし、両脇にそれぞれ一発ずつガンドを放って純白のカーテンを作り出す。
最初の三発分の魔力は、すぐに装填が完了。次に迫っていた正面のスノーマンも順次、討伐してしまった。
「良い腕だな。トニーほどじゃないが、充分、俺たちの所でも通じる技術と魔法だ」
「ありがとうございます。でも、所属するのは勘弁してください。俺にはやりたいことがあるので」
「そりゃ、残念だ」
正面のスノーマンが完全に排除されたことを確認して、勇輝は残弾を左右に放つ。再び、雪煙が舞い上がり、勇輝たちの姿を覆い隠す。
誰もが敷き詰められた雪で足を滑らせそうになる中、勇輝は真っ先に出口へと辿り着いて背後を振り返った。右手を構えたまま残った四人が通り過ぎるまで、背後を警戒する。
幸い、トニーが集まっていたスノーマンの視界を遮ったのが功を奏したようで、後ろからの追撃は皆無であった。
「よし、何とかなったか」
両脇から迫ってきているスノーマンがいないわけではないが、距離も離れており、装填したガンドで危なげなく倒すことに成功する。安全が確保されたことに安堵して、勇輝は白い息を吐き出した。
盾持ちの男も勇輝と同様に、最後はトニーが通り過ぎるのを待って警戒。勇輝に先に行くように前へ出た後、前を見ることなく後退りで部屋を後にする。
「良かった。これで助かった……本当にありがとうございます!」
「いや、お礼を言うのはまだ早いみたいだぞ?」
先頭にいたハリーが傷ついた男を床に横たえると数歩進む。彼が睨む通路の先には、ゴブリンが十数体おり、その奥からも駆け付けて来る個体が見えた。
「あ、もしかして、さっきの爆破でゴブリンを呼んじゃった!?」
「ばーか。あれは不可抗力だろ。流石にお前を責めるわけにはいかねえ。まぁ、ちょうど暇してたんだ。少しばかり運動して来るから、ここでそいつの治療を頼むぞ。これが終わったら、今日は引き揚げだ」
「おいっすー。兄貴、調子乗って怪我しないでくださいよ?」
ハリーは自分の出番が来たとばかりに槍を構えなおすと、ジリジリと距離を詰めて来るゴブリンに向かって突っ込んでいった。
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