スノーマンⅢ
勇輝とトニーが警戒しながら、部屋の中へと侵入する。勇輝は特殊部隊が突入する様に構え、対するトニーは西部劇にでも出てきそうな二丁拳銃使いのように部屋の中へと指先を向けた。
「うん、倒し切ったみたいだ。案外、楽勝っす」
「馬鹿野郎。無詠唱でバカスカと魔法を連射する奴がそこら辺にいるはずないだろうが」
「いやいや、威力を抑えれば、これくらい誰だってイケるっすよ。ただ、練習する奴が少ないだけで」
トニー曰く、「やり方さえ知っていれば、一週間も経たずに使えるようになる」のだとか。聞いてみたい気もするが、そこは流石に教えてもらえないだろう。
勇輝はスノーマンたちがいた所を見ていくと、ちょうど宝箱が一つ、胴体の背後に隠れているのが見えた。
「お、運がいいな。早速、開けてみようか」
今までと同じように宝箱を開けると、残念ながらミミックだった。小さな魔石一つが残り、それもトニーの袋の中へと何の感慨もなく入れられる。
「何だか割に合わないな。さっさと次の部屋を目指すとするか。次は上手くいくだろ」
「兄貴、その根拠のない自身はどこから来るんすか?」
「そりゃ、この結果を見ればわかるだろ。無傷で、ここまで進んで来れるのが、優秀さの証だ」
「……兄貴、いま何もしてなかったっすよね?」
本気なのか冗談なのかわからない二人の会話を聞き流しながら、勇輝は部屋をぐるりと見渡した。一見すると、何もない雪の積もった部屋にしか見えないが、勇輝の魔眼はそれを見逃さなかった。
「(あそこだけ……光ってる?)」
淡い水色の光を放つ雪の中に一カ所だけ、赤く光る正方形が見えた。それが一体何を示すのか、勇輝が考えていると、一際強い風がどこからともなく吹き付ける。
「マズイ! 一度、戻れ!」
ハリーの声に何事かと戸惑っていると、トニーが勇輝の腕を掴んで元来た道を走り出す。足をもつらせながらも、入口へと辿り着くと、コートを脱がさんとばかりに荒れ狂っていた風がピタリと止んだ。
「い、今のは一体……!?」
勇輝が振り返ると、そこには猛吹雪によって辺り一面真っ白に染まった部屋があった。入口にはガラスでも埋め込まれているかのように雪も風も出てこない。呆気に取られていると、ハリーが口を開いた。
「ホワイトアウトだ。時々、雪のある部屋で起こる現象でな。部屋の中にいると、自分がどこにいるのかわからなくなっちまう。たかが二十五メートル四方に過ぎない小部屋でも、あっという間に身動きが出来なくなるほどに雪が積もる」
「仮に動けたとしても、視界はほぼゼロっす。生き残るには部屋を出るか、この中で三十分以上耐え抜くか。まぁ、火を灯す魔法を使えれば生き残れることが多いんすけどね。こう、穴を掘って――――」
要は「かまくら」状の物を作って風さえ防げれば、あとは火の魔法を暖を取って生き残れる。だが、そんな無駄な時間を過ごすよりも、兆候を捉えて脱出する方がはるかにマシだろう。
「でも、体力と魔力のことを考えると――――」
「あぁ、ここの方が断然いいに決まってる」
ただ、ここで手をこまねいて吹雪が止むのを待つわけにもいかない。当然、この吹雪を突っ切るのは避けることを考えると、別の道へ向かうしかない。
それでも勇輝は、先程見えた赤い正方形の光が気になって仕方なかった。
「因みに、俺の魔眼に変な光が見えたんですけど、ここ以外にスノーマンが出現する部屋はありますか? 比較対象があれば、何かの手がかりになるかもしれません」
その言葉にハリーとトニーは顔を見合わせる。
「――――ここからだと……あそこか」
「――――っすね……」
そんな彼らの表情はどこか乗り気ではない。その様子に勇輝は失言だったと後悔した。このダンジョンにおいて、暗殺者ギルドのメンバーですら躊躇う何かが待ち構えていることに、今更ながら気付く。
「行くだけなら問題ないっすよね。行くだけなら」
トニーの言葉に、ハリーは逡巡の後に頷いた。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




