聖夜のダンジョンⅥ
そんな中、ハリーが前方で声を挙げる。
「おい、宝箱だ。あれも開けてみるぞ」
四辻の左に向かう通路の突き当りに、またもや宝箱が置かれていた。魔眼に映る光は同じように見えるが、わずかに銀色が混じっている。
「さっきと違う感じがします。もしかしたら宝箱かも」
「お、マジか。じゃあ、早速、さくっと開けちまえ」
「いや、俺が一番危ないんで、もう少し心の準備をさせてもらっていいですか?」
イケイケ、と背を押すトニーに抵抗しながらも、勇輝は刀を引き抜いて再び逆手で構える。十秒ほどかけて深呼吸して落ち着くと、一言二人に声をかけて、蓋に手をかけた。
ゆっくりと蓋を開けていくと、そのまま勢いよく開くことなく、一定の速度で開き切る。
「おっ、本当にミミックじゃねえや。兄ちゃん、やるじゃないすか。それで、中身は――――?」
トニーがテンションを上げて中を覗き見る。そこにはランタンが横たわっていた。それを持ち上げると、中にある石がろうそくのようにポッと小さく灯る。
「確かに少しは暖かくなって欲しいとは思ったが、こんなんじゃ暖はとれねえ。一番の外れってわけでもないが、一番出回ってるアイテムだからな……」
「これ、そんなに出やすいんですか?」
「あぁ、ここに潜ったことがある奴なら、一度は見たか聞くかするぐらいには、よく出る。これは光ってるだけだが、ちょっと弄れば火が出るのは便利だし、困ったら火起こしにも使える。ただ、それなら魔法で代用できる。だから、欲しい奴はいるかもしれんが、高値で売れるって程じゃない。せいぜいが街の賑やかしだな」
ハリーはため息をついて、それを自分の持っていた鞄へと詰め込む。ランタンの大きさに対して、ほぼ一緒か少し大きいくらいだが、外から見た限り、何も入っていないように見えた。
「それ、本当にランタンが入ってます?」
「あぁ、これは魔道具の一つでな。見た目よりもたくさんの物が入り、重量も増えない鞄だ。ロジャー副会長の作品で、一番評価が高い品だ。予約待ちで向こう数年は買えない代物さ」
「……あの人、本当にすごいんだな」
いつも変な物を作っているという勝手なイメージがあったが、魔術師ギルド副会長の地位は伊達ではないらしい。
尤も、何故、そんな貴重な品をハリーが持っているかは、それはそれで気になる。ただ、ロジャーのコートを手に入れた経緯から、勇輝は彼もまた同じように試供品を偶然手にしたのだろうと推測した。
「すごいか、すごくないかで言えば、間違いなくすごい部類だ。それも天才のレベルのな。だが、天才と言うのはどうにも話が合わないことが多い。あまり関わり合いにならない方が、精神的には良いかもしれないな」
ハリーは急に肩を落としてため息をつく。
「何か合ったんですか?」
「いや、兄貴ってば、あの鞄を作る材料集めを無理矢理手伝わされたらしくて、それがかなり大変だったっぽいんすよね」
ドラゴンのいる場所に平気で――――あくまで情報提供しただけで、行けと命令したわけではないが――――人を送り込むような人だ。恐らく、それと似たような何かをハリーも経験したのだろう。今もダンジョンの壁を見ているようで、その向こうのどこか遠くを見つめているように見える。
「大変、でしたね」
「そうか。お前も似たような経験があるのか。あの副会長は、時々、笑顔でえげつないことしてくるから気を付けろよ」
暗殺者ギルドの人間に「ヤバい」と言わせるのだから、ロジャーの研究一筋な姿勢も玉に瑕と言うところか。せめて、コートが返却された時には、次の厄介ごとに繋がらないよう祈るしかない。
宝箱が消えたのを確認し、勇輝たちは踵を返す。ここまでに宝箱を見つけて、開けることができては良いが、次の階層に行くための階段は見つかっていない。隠し部屋か何かを勇輝は疑ってみるが、どこもかしこも宝箱よりも暗い黄土色で、色・光量的な違和感はないように思えた。
「まぁ、これなら、いい感じに見つけられるだろう。さぁ、次だ次!」
ハリーの声に促され、勇輝とトニーはダンジョンの多く深くへと進んで行った。
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