聖夜のダンジョンⅡ
このまま、ここで待っていても宝箱があっという間に開けられて消滅するところを見るだけだ。勇輝とハリーを先頭に、部屋の奥にある通路へと進んで行く。
「俺が先に攻撃を仕掛けて、それを抜けてきたらお前が対応する。それでもダメなら、あいつがやる」
ハリーが親指で後ろを指す。肩越しに振り返ると、満面の笑みで指輪が見えるようにトニーが両手を振っていた。
「階段が見当たらないと聞きましたが、この階層のみしか存在しないということですか?」
「あぁ、その代わりにとんでもなく広い。正直、一番奥だろうという所まで行って戻って来るだけでも疲れるくらいにな」
そう言っている内に、丁字路へと差し掛かる。そこを何の警戒もすることなく、ハリーは右へと曲がった。あまりにも無防備だったので、一度立ち止まった勇輝が目を丸くしていると、後ろから来たトニーが首を傾げる。
「こんな浅い所に魔物は来ないって。どんだけ恐ろしいダンジョンに潜ってたんだ?」
「えっと、気配が感じられない奇襲特化の魔物がいる階層とか、風のように一瞬で距離を詰めて来る魔物がいるダンジョンとかに」
「何だ、そりゃ!? そういや兄ちゃん、日ノ本国の出身か。あっちのダンジョンはなかなか魔境だな」
トニーの驚く声が通路の響き渡る。それに顔を顰めたハリーが足を止めた。
「話に花を咲かせるのは構わないが、こちらが雇った理由を忘れないでもらいたいな。お前の眼、何か見えているか?」
ハリーの問いかけに、勇輝は顔をすぐに横に振った。
「いえ、今のところは怪しい物は見かけていません。通路のチェックはしているので、それをしながら、さっさと宝箱を見てみた方がいいかもしれませんね」
「ふっ、頼もしいな。これなら、早々に見つかることを期待してもいいかもな」
槍を肩に担いで進み始めたハリーを追いながら、勇輝は頬を引き攣らせる。大抵、このような発言をすると上手くいかないことが多い。いわゆる、一部の界隈で言われる「フラグを立てる」というものに近いだろう。
そんな嫌な予感を抱きながら、一つ、二つと大き目な部屋を素通りしていく。どこにも冒険者がうろついていたり、座り込んでいたりするようで、かなりの人数が中にいることがわかる。そして、どこも宝箱が出現した瞬間に開けられてしまうのか、一向に宝箱を見ることができずにいた。
代り映えのない通路を進んで行き、精神的な疲労が見え始めたところで、ハリーが足を止めた。
「ここの辺りからゴブリンが多く出始める。加えて、比例するように宝箱の出現も多くなるから、気を付けて進むぞ」
「わかりました――――って、あれ? 言ってる側から、そこにあるの宝箱じゃないですか?」
勇輝は部屋に入る直前で分岐した道の突き当りに、四角い黄色の光を勇輝は認識した。魔眼を閉じて、肉眼に切り替えて見ても明らかに宝箱のような外観をしている。
「お、幸先いいっすね。兄貴、これどうするんすか?」
「言わなくてもわかってるだろ。こいつの魔眼がどれくらいのものか確かめる試金石だ」
ハリーの言葉を受けて、勇輝は宝箱のある道へと足を進める。
「あれを開ける時の手順は、どんな感じでやればいいですか?」
「その前にミミックの攻撃方法を知っておかないといけないな。あいつらの攻撃方法は主に二種類。舌を開けた手に巻き付けて、中へと引き込もうとするやり方が一つ。この場合は、お前の剣で下を斬りつけるか、俺が中に槍を突き入れれば問題ない。面倒なのはもう一つの方でな。開けると同時に舌で殴って来るタイプだ。殴ってくる瞬間しか蓋が開いていないから、こちらの攻撃が通りにくい」
「あと痛い。これでギルドの医務室送りにされるのが大半だ」
なるほど、と勇輝は納得する。中身は何かと期待して屈んでいれば、舌が殴る先にあるのは顔面だろう。屈み方によっては、鳩尾や下半身の急所に当たる可能性もある。今から、その真正面に向かわなければならないと考えると、勇輝は気が重くなった。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




