勧誘Ⅵ
男は腰のナイフの柄をなぞり、頬杖をついたまま問いかける。
「それで、お前さんの考えを聞かせてくれないか? 長ったらしい意見はいらない。俺たちが聞きたいのはイエスか、ノーかだ」
いくつかの質問と再度の組織の紹介を経て、勇輝は最期の質問を口にする。それは実質、彼の問いに肯定で返すことを意味していた。
「――――俺一人での捜索を希望か。それとも、そちらのメンバーも合流するか。どっちだ?」
勇輝の視線は、ここまで案内をしてくれた三人に向けられる。彼らはその視線を受けても動じず、各々が好き勝手に寛いでいた。いつの間にか手に瓶を持つ者が増えており、笑顔で飲み干している。
「あぁ、あいつらは別動隊だ。他にやってもらうことがある。ただ、こちらから二名の魔法使いを同行させたい。一応、そちらの身柄を守るのも仕事の内だからな」
「だったら、一つ条件がある。冒険者ギルドで依頼を正式に出してもらいたい。ダンジョンに向かうためのパーティ募集なら、何も怪しまれないはずだ。――――格好や態度なんて、いくらでも誤魔化せる」
勇輝は親指で冒険者ギルドがあるだろう方向を親指で指し示す。
男は一瞬黙り込んだ後、軽く頷いた。
「なるほど。万が一、俺たちがお前さんに手を出したとしても、その履歴が残れば疑われるのはこっちだ。ギルドカードの偽造は重罪。そこのところは譲れはしないか」
「ケアリーさんが汚れ仕事に手を染めているとは思わないし、信用していないわけじゃない。でも、それとこれとは別問題だ。それに、この件に関する俺のメリットも提示されていない」
「オーケー、きっちりしているな。ますます気に入ったぜ。おい、アレ持って来い」
男が武器を弄っていた腕を頭の高さまで持ち上げて、手を開く。次の瞬間、背の高い男が羊皮紙を彼の手に渡していた。
「(――――速いっ!?)」
魔眼を開いていたが、その動きに勇輝は気付くことができなかった。暗殺者ギルドのメンバーとして、やはり素早さは鍛えているらしい。
来た時とは真逆に、ゆっくりと足音を立てて、元いた所へと戻って行く。
「さて、では裏向きの依頼書だ。こちらの要求は聖夜のダンジョンにある永遠の愛を証明すると言われる指輪だ。報酬は一日の探索につき五十万。宝箱の中身の分け前は、指輪以外お前さんのもの。ミミックの討伐報酬も全額そちらだ」
ミミックの討伐報酬は一体につき大銀貨一枚。日本円にして一万円だ。
魔術師ギルドでは、討伐時に出現する小さな魔法石を集めているようで、それがそのまま討伐報酬になっているらしい。
何でも、それを解析することで宝箱の中身の補充の謎や空間の拡張魔法などの発展に繋がるのだという。
「じゃあ、その金の半分はそちらへ。流石に疑われる可能性もあるので」
「いや、こっちはこっちで稼いでるんだ。そんな心配はいらんよ。冒険者ギルドにも話は通すことはできる。あんまりやりたくはないがな」
「では受け取らずに、そのお金で慈善事業でも何でもいい。他の人を助けるなり、匿名で寄付するなり好きにして欲しい」
勇輝が頑なに一方的な報酬は受け取らないと宣言すると、男は初めて困った様子を見せる。
「まったく、変なところで頑固だな。――――頭が石になっちまうぞ?」
「単純に、派遣されてくる二人の力も借りるのに、俺だけ討伐報酬を貰うだなんてことができないってだけだ。何だったら、そのまま、二人のお給料で良いのでは?」
「あぁ、それはそれでありだが――――いや、あいつらに大金持たせたら面倒なことになりそうだ。無し無し、それは無しだ。俺が預かっておくことにする」
男は大袈裟に羊皮紙をもった腕を自身の目の前で大きく振る。
「まぁ、とりあえずは契約成立ってことでいいか? 討伐報酬の取り分は互いに等分って書き換えて、後は細かいところに目を通してくれ」
広げられた羊皮紙に書かれた文字を読みながら、勇輝は彼の言葉に頷いた。
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