勧誘Ⅲ
男は一度口を開いた後、何を思ったのかすぐに閉じる。人差し指で頬をかき、気まずそうに他の二人に振り返った。
「どうする? これ」
「どうするもこうするもないじゃん? あの言葉に悪乗りしたの、アンタだし。責任なら、自分でとってよね」
女が椅子に座り、カウンターを人差し指で撫でる。そのまま口元にまで持っていき、ふっと息を吐いて、埃を飛ばす。
「同感だな。あんだけわかりやすく強調してくれたのに、面白がって言葉を違えたのはお前だ。お前が思っている以上に、あっちはこちらのルールを理解しているぞ」
スキンヘッドの男は、両腕を組んだまま仁王立ち。その鋭い瞳は、仲間であるはずの男を睨みつけているようでもあった。
「わかった、わーかったって。俺が悪かったよ。全部、俺の落ち度だ。だから何とかしてくれって」
二人に謝罪をしているが、当の本人たちはそれに応える様子はない。
その様子を見ていた勇輝は、ため息をつきたくなる気持ちを抑えて、問いかける。
「それで? まともな依頼内容なら、こちらも聞く耳は持ちたいですが、そこら辺の説明はしてもらえないんですか?」
「それが、うちのリーダーが自分で言うって聞かなくてな。こうして何とかこの先へ進んでもらいたいってわけだ。『責任者』って言えば信じてもらえるか?」
初めてケアリーから出た言葉と一致する単語を男は告げた。
まだ人相と案内された場所に疑念が付きまとっているが、勇輝は一先ずは信用することに決めた。
「わかりました。では、案内をお願いします。ただ、後ろから奇襲されるのも困るので、三人とも前を歩いていただいてもいいですか?」
「おぉ、着いて来てくれるなら、お安い御用だ。両手を頭の後ろに組んで進んでやっていいぜ――――って、痛っ!?」
笑顔で手を組む彼の頭をスキンヘッドの男がどつく。
「お前、調子に乗りすぎ。あれは、そういうノリに不機嫌になるタイプ。いい加減、空気くらい読めるようになれ」
「ほんと、それな。一芸には秀でてるけど、一般人の感覚が理解できてないのは正直ないわー」
女が席を立って、カウンターの向こう側へと回る。中指の関節でノックする様に、いくつかの酒瓶を叩いていくと、不意に何かが外れる重い音が響いた。
「はい、ここ隠し扉。こいつが不快な思いさせて悪かったね。とりあえず、アンタたち先に行きな。私がちゃんと連れて行くから」
後で一杯奢れよ、と付け加えて、親指で奥に進むように二人の男に示す。カウンターの横に扉があり、周りに比べて、少しだけ重厚感を感じさせる色味があった。
若干、嫌そうな表情浮かべる長身の男をスキンヘッドの男が無理やり連れて行く。扉を開いたその先は、件の階段になっているらしく、彼らの下半身がどんどん消えていった。肩辺りが隠れそうになったところで、扉が一人でに閉じてしまう。
「あの階段は一本道で待ち伏せも不可能。私が先に進むから、数メートル遅れてついてくればいい。それなら、どう?」
「攻撃の意志があると思ったら、手加減はしません。具体的に言うなら、この建物全部が吹き飛ぶくらいの魔法を、詠唱なしで撃ちます」
「いいよ。あの魔法学園の壁をぶち抜きかけたやつでしょ? アレを相手にどうこうするなんて、最初から思ってないから安心して」
女は両手を挙げて、降参のポーズを示す。それでも表情を崩さない勇輝を見て、一瞬だけ目を丸くした。
「アンタ。いい根性してるね。結構な修羅場を潜ってきてるのが、何となくわかる。これなら、アンタが選ばれたのも納得がいくかもね」
「何か、知っていることでも?」
「悪いけど、アイツが言ったように、『責任者』が説明をすることになってる。こう見えても私の組織、上の命令にはしっかり従うタイプだから、その辺は理解しといて」
女がカウンターから移動し、扉を潜って行く姿を見て、勇輝もその後を追った。
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