出国Ⅲ
船へ乗り込む階段を上り、辺りを見回す。天気はあいにくの曇天で、海から吹き付ける風が体温を一気に奪っていく。
「こんな所にいると風邪ひいちゃうから、早く中に行こうぜ」
マリーの先導に従い、ファンメル王国の保有する五隻の内の一つ。王族専用艦の内部へと進んで行く。
一度だけ、船の中に仕掛けられたトラップを探し出すために入ったことはあったが、あの時は物探しに必死で、船内をよく見る暇がなかった。
床や天井は、ニスが塗られているのか魔法石の光を柔らかく跳ね返していた。陽の光を感じられない通路だが、不思議と森の中にいるような気分になる。
通路を何度か曲がって船の後部の方へと進んで行くと、マリーが通路の奥を指差した。
「あっちに外に出るための階段がある。流石に、あの風の中を歩いて来るのは嫌だったから、こっちから来たけど、緊急時はこっちから脱出な」
「あぁ、でも、その前にそういう事態が起こらないことを祈るよ」
ただでさえ、クラーケンやケトスという海の巨大な魔物に襲撃されているのだ。これ以上、海の藻屑にされかねない魔物との遭遇は勘弁願いたい。
「――――で、こっちがあたしたちの部屋で、そっちが勇輝とフェイ、オーウェンの部屋。とりあえず、みんなこっちに集まってるから入って、入って!」
マリーに促され、扉を開けると、既にそこには魔法学園からアメリアの護衛に参加していた面々がいた。ベッドが三つ並び、更に豪華なテーブルと椅子が備え付けられている。
勇輝と桜が多めにお金を払って日ノ本国に向かった時の個室とは、比べ物にならない豪華さに思わず目が点になる。
「あ、お帰り」
気の抜けた声でアイリスが手を振る。もう一方の手で本を抱えているところを見るに、飛び級少女の名に恥じず、何かの魔法書を読んでいたところらしい。
その横でマリーの護衛騎士であるフェイがニヤリと笑っている。
「君が来て安心という気持ちが半分、何かに巻き込まれるんじゃないかって気持ちが半分だ。でも、今は歓迎しておくよ」
「今から、船下りたっていいんだぞ? っていうか、お前のところのお転婆令嬢、ちゃんと護衛しとけよ」
フェイの発言が冗談だとわかっているので、勇輝も冗談で言い返す。
そうしている間にも桜はマリーに引っ張られて、空いている席へと座らされていた。
「まったく、騒がしいな。まぁ、君のお姉さんほどではないから我慢できるが、間違ってもアメリア様の前で、同じ調子はやめてくれ」
「はいはい。次期侯爵様の出世街道はお邪魔しませんとも」
ライナーガンマ公爵の嫡男であり、魔法学園の生徒会長であるオーウェンは、前生徒会長の妹であるマリーに苦言を呈する。彼女の姉であるクレアとは因縁の中であり、その延長線に悪戯をする彼女の存在があることを考えれば、彼が一言二言、文句を言いたくなるのも仕方のないことだろう。
「会長。とりあえず、みなさん揃ったことですし、本題に入られてはいかがですか?」
「そうだな、副会長。帰国してから話し合うのも大変だから、今の内に魔法学園の状況、それと首都オアシスのことについて、彼らにも伝えておかないといけないな」
王家の血を引く公爵家。その水色の髪をかき上げながらオーウェンは頷いた。
「エリーです。で、その話は私がまとめて、お話ししても?」
「お願いできるかな?」
オーウェンの問いかけにエリーは、金色のポニーテールを揺らして立ち上がる。
何か大切な話が始まると理解し、勇輝も空いている椅子の背もたれへと手をかけた。だが、なかなか椅子が動く様子を見せない。
不思議に思って足元を見ると、波で動かないように溝にはめ込んであるようだった。気恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じながら勇輝は、そっと椅子に腰かける。
「では、少し長くなりますが、ご容赦ください」
エリーは僅かに頭を下げた後、勇輝と桜に視線を合わせて語り始めた。
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