出国Ⅱ
――――時は遡ること十数時間。
日ノ本国、北御門領洞津の港に勇輝たちはいた。
「お忙しい中、無理を言ってごめんなさい」
ファンメル王国の第一王女であるアメリアは、申し訳なさそうに謝罪する。
十二月も中旬に入り、あちこちで年末年始の準備を始めている時期だ。そのような中で、家族と過ごす時間を奪って、護衛の任務に呼んだのだ。流石の王族といえども、良心が痛んだらしく、直接、勇輝たちに声をかけて来た。
「いえ、ちょうど、魔法学園にも戻って、色々と学ぼうと思っていたので、渡りに船と言うか……」
勇輝が慌てて両手を胸の前で横に振る。
水色の髪をかき上げたアメリアの視線は、その横にいる少女にも向けられた。
「あなたもごめんなさいね。巻き込んでしまったみたいで」
「いえ、そもそも学園に戻りたいと言っていたのは私ですから。むしろ、必要とされていないのに乗船させていただけるだけでも、非常にありがたいです」
本来ならば年始まで桜は実家で、陰陽師である父から式神の指南を受けることもできた。
しかし、桜が選んだのは魔法学園に向かうことだった。
「アメリア様。そろそろお時間です」
「そうですか。では、私は先に行きます。お二人とも、遅れないように」
王族直属の護衛騎士に促され、優雅に踵を返すアメリア。その背を見送って、勇輝は桜へと問いかける。
「その、本当にいいのか? 年越しは、家族で過ごすものだしさ」
「ううん、いいの。お父さんやお母さん、杏子ちゃんも理解してくれてるから。その代わり、次に会う時にはもっと技術を磨いて、みんなを驚かせないとね」
笑顔で告げる桜だが、その背後から意気消沈した姿で青年が声を絞り出す。
「ひひん。せっかくおっ嬢が戻って来たのに、また行ってしまうとは。拙者、悲しみで心臓が張り裂けそうですぞ」
「別に今生の別れじゃないんだから、まーさんもそんな顔しないの!」
彼女の父である広之の式神。本来は馬の頭をしているのだが、周囲の人を驚かせないために姿を変えている。
彼には言之葉家からここまでの道のりを、式神の常軌を逸した脚力と持久力で一気に踏破してもらったのだ。
そんな午式も桜との別れは耐えられないのか。今にも泣きそうな表情で呻いていた。桜の一言が無ければ、犬の遠吠えのように響き渡るレベルで嘶いていたかもしれない。
『ふむ、まぁ、こっちから話を通したこととはいえ、こんな形で送り出すことになったのは申し訳ないね』
午式が桜を見送るように、勇輝にも見送る者がいた。
正確には、掌に乗る大きさの人型の札を用いて、遠隔で見聞きしている勇輝の曾祖母であった。
『あっちは、ここよりも寒いから風邪をひかないようにね』
「大丈夫だよ。この服はある程度、寒さを軽減させてくれる効果があるからさ。それより、お婆ちゃんこそ気を付けて」
御年百歳に迫る老体だ。ほんの少しの風邪が命を奪いかねない。
尤も、勇輝が最期に見た時よりも遥かにしっかりと体を動かせていることから、余計なお世話かもしれないが。
「次に帰って来れるのはいつになるかわからないけど、それまで何とか上手くやるよ」
『そうしなさい。でも、次に会うのはそう遠くないだろうから、肩肘張らずに頑張んなさい』
「え? それって、どういう――――?」
勇輝が疑問を口にするが、それが言い切られるよりも早く背後から声をかけられた。
「お、勇輝たち、こんな所にいたのか。早くしないと、乗り遅れるぜ。ほら、歩いた歩いた!」
赤い髪を揺らし、勇輝と桜の背中を押す少女マリー。魔法学園では悪戯で悪名を轟かせることもある彼女だが、今は善意全開で二人を船へと進むよう促していた。見送りに来ている二人は、唐突な乱入者に驚愕を隠し切れない様子ではあったが。
「あ、巫女長様も、ありがとうございました!」
『桜ちゃんも元気でやりんさーい』
桜の手を振る動きに合わせて、ヒラヒラと左右に揺れ動く式札。それを興味深げに午式は横で見つめている。
「ご、午式さんも、お元気で! 広之さんたちにも、よろしくお伝えください! 特に卯式さんには――――」
「はい。必ずお伝えしますとも! また会う日まで、我ら式神一同。お二人の無事を祈願しております」
午式も勇輝や桜に倣って、大きく手を振り返す。先程までの表情とは変わり、そこに不安の色は見えなかった。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




