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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第26巻 薄明の呪いに終止符を

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胎動Ⅱ

 確かに僧正の言う通り、魔王討伐はその責務を負った者が対応するべきである。その考えは全く以ておかしな話ではない。

 しかし、勇輝の脳裏にはマリーやアイリスなど、ファンメル王国で出会った仲間の顔が浮かんでいた。


「自分も、愛する人も守りたいのと同じくらい、大切な仲間がいるんです。何かあった時に、助けられるような力が欲しい。そう思うのはダメですか?」


 勇輝の返事に、僧正は肯定も否定もせずにじっと見つめるだけ。数秒の沈黙の後、僧正は嘴を撫でると大きくため息をついた。


「いくら力を持ったとしても、人の手が届く場所には限界がある。欲望と同じで際限なくその手を広げようとすれば、一番大切な者を守れなくなるぞ。誰かを救う代わりに、誰かを見捨てる覚悟をもつことも勇気だ。人として生きる以上、避けられはしない」


 勇輝は僧正の言葉が痛いほどよくわかる。

 この世界では神となる存在がいるが、彼らの力を以てしても平和な世は訪れていない。ましてや人間如きに何ができるのか。


「――――だが、より強くならなければ、その守り抜きたい一つすらも守れない。要は考え方の問題だ」


 僧正は火鉢へと振り返り、餅を突く。


「我が言えるのは、『優先順位を間違えるな』ということくらいだ。それさえ間違えなければ、後悔することもあるだろうが、何度でも立ち上がることができる。だが、それを間違えてしまえば、もう二度と元に戻ることはできない。それがどういうことか、わかるな?」

「……はい」


 僧正の言葉を噛み締めて、勇輝は頷く。すると、その目の前に膨れた餅が差し出された。醤油の仄かな香りが鼻腔をくすぐる。


「生きていれば、ままならぬことも不条理なことも経験する。どんなに対策をしたところで、お主と同じように考えて動く者たちが、何万、何億といるのだ。鳥や獣、魔物まで入れれば数えるのすら億劫になる。そんな相手を前に全てが上手くいくわけがない――――」


 皿と箸を受け取りながら、勇輝は僧正の次の言葉を待つ。


「お主の場合、何事も全力で取り組むのが長所であり、欠点でもある。時折、一歩引いた目線で物事を俯瞰したり、ほどほどに取り組んだりすることが大切だ。くれぐれも自分を見失わないようにな」


 そう告げた僧正も餅を皿に乗せて、箸でつまむ。

 会話の重さと目の前の光景のギャップに、どう反応していいかわからない勇輝。そんな勇輝の心を見透かしたかのように僧正は笑った。


「お主は変に考えすぎな時があるからな。素振りの時と同じで、無心になってみろ。自然と頭の中でやるべきことが浮かんで来るだろう」

「そういうものですか?」

「あぁ、雑念を打ち払えば、自ずと答えは見つかる。何せ、その類の悩みは既に己の中に答えがあることが多いからな」


 嘴で器用に餅を食い千切り、白い息を吐きながら幸せそうな表情をする僧正。勇輝も目の前の餅にかぶりつき、口の中に広がる醤油の旨味と餅特有の甘さに舌鼓を打つ。

 この類の食べ物で何度か喉を詰まらせかけたことがあるため、慎重に食べ進めていく。


「それで? 今回の事件は、呪いを魔眼で認識することが陰陽師殿の課題だったはずだが、そちらの方はどうだった?」

「いつも通りです。危険なものは大抵は赤や黒の色を放っていることが多いのですが、呪いも同じように黒い光や靄のように見えました」

「そうか。それ以外に視界に変化は?」

「いえ、特に気になることはありませんね」


 何気なく答えた勇輝であったが、僧正がいつの間にか真剣な表情で勇輝の目を見ていることに気付いた。真っ黒な瞳は、視線で勇輝を射抜くような圧すら感じさせる。

 思わず、それの視線を見つめ返すと、僧正が静かに口を開いた。


「その眼が何を映すのかは我にはわからぬが、それにも先程と同じことが言える。見えるものだけが全てではない。一歩引いて考えることが大切だ。お主は既にそれを知っているはずだから、余計なお世話かもしれんがな」


 次の瞬間、僧正は残った餅を大きな嘴の中へと一気に放り込んでいた。

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