罪滅ぼしⅦ
そんな勇輝の気持ちを知ってか知らずか。心刀は勿体ぶって、なかなか話そうとしない。
『そんなこと言うなよな。一応、お前の命を救った能力だし、今後も役に立つはずだぞ?』
自分の命を救った。過去形で放たれた言葉に勇輝は思わず思考を巡らせる。それは言い換えると、既に一度は能力を発動し、体験しているということではないか。
「(まさか、あの時か――――?)」
勇輝には怨霊と対峙していた際に一つだけ理解できない現象に遭遇していた。その時には、既に心刀は勇輝に話しかける余裕があったはずなので、能力を開花させていたとしてもおかしくはない。
『おう、流石に俺無しで、あの怨霊と対峙するのは危険だったからな。便利だろ? 一瞬で鞘に戻って来るっていうのは』
心刀を弾き飛ばされたと思ったら、いつの間にか鞘の中に納まっていた。
「(え、じゃあ、何だ? お前の能力って、鞘の中に戻ること?)」
『元の場所に戻る、っていうのは能力の一部に過ぎないが、そういう認識で構わん。元の鞘に収まる、なんていうだろ?』
「(……なんで、そんな能力に? あと、それは桜と婚姻関係になったばかりの俺には縁起が悪いだろうが)」
炎や風の斬撃を見ていたせいで、自分の心刀はどんな能力に目覚めるのかと期待していた気持ちがないわけではない。むしろ、クリスマスイブにサンタを待つ子供のような気分で待っていたくらいだ。
その期待があった分、想像の遥か下を行く地味な能力に肩を落とす。
『おいおい、そりゃ無いだろう? 元の世界に戻りたいのが、お前の願いなんだ。それがそのまま俺に影響を与えたんだから、文句は自分自身に言ってくれよな。何せ俺は――――』
「はいはい、どうせ『俺はお前。お前は俺だ』とか言うんだろ?」
思わず勇輝は心刀の思念を遮って、口から言葉を言い放つ。それだけ、苛立ちと落胆を隠せなかったからなのだが、その一方で、本人の気質や性格、経験が心刀に影響を与えているのは、何となく察していた。
継司の扱う心刀「斬魄貞永」の能力が、対亡霊特化であったことを考えれば容易に想像がつく。不審死の検死を行う役割を負っている者が、霊に関する能力をもつなどあまりにも都合が良すぎる。
『本人が気付かない内に、そういう願望や恐れがあったんだろうよ。生きてる人間も恐ろしいが、死んでる人間に襲われるのも同じくらい恐ろしいからな』
生きていれば刀で斬れるが、亡霊や呪いは確実に斬れるとは限らない。それ故の能力であると考えれば説明はつく。ただし、それでも疑問は残る。
心刀の能力は、ある程度、自分の意志で選んで得ることができるのではないか、と。
『いいんじゃないか? 悪夢や幻で苦労するんだ。それくらいの対価はあってもな』
「(そういうもんか?)」
『そういうもんだろ? それよりも、俺の能力をちゃんと生かしてくれよ? 置き引きされても安心とか、下らないこと考えたら怒るからな』
「(……)」
『考えてたのかよ!?』
悲痛な叫びが勇輝の脳内に響くが、それを勇輝は無視して考える。
正直、有効な使い道が浮かばない。あるとすれば、それこそ今回のように戦闘中に心刀が手を離れてしまった時に回収するくらいだろう。ガンドを放てるので、わざわざ自分から刀を投げて無理矢理攻撃するということも考えられない。
「どうせなら、お前が転移して鞘に戻るんじゃなくて、俺をどこかに転移させてくれればよかったのにな」
ファンメル王国のアメリア王女のように転移魔法が使えれば良かった。それこそ、勇輝の望む「元の世界に戻る」を実現する能力に違いない。
白い息を吐きながら、嫌味のように呟く。
『馬鹿言うな。仮にできたとして、それを発動させるための魔力をどうやって用意するつもりだ? 世界の壁を超えるとなると、相当なもんになるぞ?』
「(はいはい、言ってみただけだよ。そっちこそ、何か良い使い方があったら教えてくれよな)」
『あぁ、もちろんだ。楽しみにしておけ』
心刀との会話を打ち切り、勇輝はもう一度、周囲を見渡した。寒空の下、拘束された村人たちの表情は暗いが、どこかほっとした様子が伺える。勇輝の魔眼には、彼らに纏わりついていた黒い光は、もう映っていなかった。
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