罪滅ぼしⅥ
勇輝は桜から、彼女が支える厘に視線を落とす。
「そういえば、この子は朝永さんの失踪事件について協力するために来たんだよな。この後、どうするんだろう?」
「うーん。とりあえず西園寺の人の指示で海京から来たって言ってたから、海京まで戻るんじゃないかな?」
海京からこの村までもそれなりに距離がある。いくら西園寺家の家臣と言えども、先日まで魔物にトラウマを持っていた少女を送り出すというのは、スパルタにも程がある。隠密は孤独な役割だが、それでも彼女には早いような気がした。
「この村で休んで、そこから帰るのかな? 昨日もどこかに宿まっていたっぽいし、今は東雲家の家臣の人たちも大勢いるから安心できるもの」
一先ず、仮でもいいので彼女を寝かせる必要がある。そう告げて、桜は通りかかった僧侶に厘を抱えながら休む場所の提供をお願いした。すぐに僧侶も頷いて、桜と厘を案内し始める。
一瞬、手伝おうか悩んだ勇輝だが、厘の体に触れるのもマズイので、ここは桜に任せることにした。彼女の背中を目で追っていると、頭の中に心刀の声が響く。
『ま、一件落着ってか?』
「(あぁ、後味は悪いけどな)」
今までと違って、人が目の前で死んだ。悪人であったが、それは法の下で裁かれるべき悪人であり、このような結末を迎えるべきではなかったと考える。
『そう言うな。あのお婆さんは、お婆さんで満足だっただろうよ。少なくとも、自分の悩んでいた問題の答え合わせができたんだからな』
「(その結果、死んでたら意味ないだろ)」
『世の中には死んででも成し遂げたいって考える奴もいるんだ。お前にもそういう日が来るかもしれないんだ。最初から否定するんじゃなくて、自分に当てはめて考えおけ。いつか役立つ時が来る』
「(そんな時が来ないことを祈るよ)」
誰が好んでバッドエンドを求めるのか。選べるのならばハッピーエンド一択に決まっている。その為の日々の努力だ。
勇輝は心刀の言葉を跳ねのけて、しかし、どこか頭の片隅でそのことを考えずにはいられなかった。
『――――あぁ、そうだ。一ついい知らせがある。聞きたいか?』
「(……何かの罠じゃないだろうな?)」
『そんなことするかよ。俺にとっても、お前にとっても有益な情報だよ。聞くだけ聞いとけって』
自慢話をしたくて仕方がない子供のような勢いで心刀は捲し立てる。無視をしようか逡巡する勇輝だったが、ふと継司の腰にある心刀が目に入った。
斬魄貞永。後ろの二文字には聞き覚えがあった。海京の銭湯で出会った腕利きの刀鍛冶の名前だ。勇輝の心刀を作った和義の祖父、久義と肩を並べる名刀工。日ノ本国における五大刀工一派の一角でもある。
「(なんだよ。継司さんの刀みたく、何か能力に目覚めたとかか?)」
勇輝は呆れ気味に言葉を返す。
心刀の能力が目覚めるのは個人差がある。ただ、少なくとも、よほどの才能がない限りは、そう簡単に目覚めるものではないと勇輝は聞いている。
『おう、ばっちり目覚めたぜ。おかげで、ようやく落ち着けるってわけだ』
「――――は?」
想定外の答えに勇輝は思わず口から声を漏らす。幸い、近くで聞いていた者はおらず、勇輝が片手で口を押えるだけで済んだ。
その様子があまりにも面白かったのだろう。心刀の大笑いする声が頭の中に響き渡る。
「(うるさいな。そんなすぐに使えるようになってたまるか。どうせ、手抜きの能力なんだろ?)」
勇輝は一度冷静になって考える。そんな簡単に能力が目覚めるならば、能力自体もかなり弱いものだ、と、と。
『あー、うん。まぁ、それは否定しない』
「(いや、そこは否定してくれよ)」
せっかくの苦しい試練を乗り越えて手に入れた武器なのだ。せめて、自分が納得する能力出会って欲しいと思うのは、当然のことだろう。
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