罪滅ぼしⅠ
寺へと至る階段に辿り着いた勇輝たちは、表情を強張らせる。
辺りは静まり返り、何の気配も感じられない。時間帯を考えれば当たり前なのだが、それでもどこか異様な雰囲気を感じ取ることができた。
「あれだけの規模で術を発動させたのなら、当然、術士がいるはず。それも相当な術士が。一体、目的は何なんでしょうね?」
継司が唸り声をあげる。
「ここは実際に会ってみるしかないんだな」
丑式が階段を上り始めたので、勇輝たちもそれに従う。前方やや上を見ながら行くと、開いた勇輝の魔眼に反応があった。
蛍のように細かい小さな光が、風に乗せられていくたんぽぽの綿毛のように飛び交っていることに気付く。その光景に、思わず足を止めそうになるが、勇輝はその無数の光の中へと入って行った。
「何だろう。結界の中みたいに身が引き締まる、というか……」
「心が洗われる感じがするな」
誰も見ていないのに、何故か姿勢を正さなくてはいけないと感じさせる何かがあった。それを言い表そうとするも、上手く言語化できない。
やがて、階段も終わりを迎える。黒い光の奔流が爆散した山門は、形こそ元の状態を保っているが、どこか前に見た時よりも傷んでいるように見えた。
瓦は罅割れ、柱の至る所がささくれ立っている。どこからどう見ても荒れ寺にしか見えなかった。
「結界を張っていたようだけんど、あの至近距離なら物理的な被害が出るのも仕方ないんだな。でも、それよりも、中の人は無事かどうかの確認が優先だよ」
そう告げた丑式は意を決したように山門を潜り抜けた。
「ごめんください、だよ」
呟くように告げた言葉は、寺の敷地に響くことなく暗闇に消えて行った。
右も左も人の気配はしない。ただ、晴久の遺体が安置されている真正面の本堂からは灯りが漏れ出ており、そこに誰かがいるように感じさせてくれた。
「いや、誰かいる――――というか、お経を唱えている、のか?」
ただ、それにしては様子がおかしい。近づけば人の声が聞えて来るのは確かなのだが、木魚やおりんなどの梵音具の類が一切聞こえてこない。
不審に思いつつも、本堂の中へと足を踏み入れる。そこに広がる光景に勇輝たちは息を飲んだ。
数多の僧侶に囲まれて、お経を唱えられている村人。それも一人や二人ではない。この狭い寺の中に、これでもかと言うくらい詰め込まれている。
そして、何より、その大半が赤子や赤ん坊。最も年齢が高い人でも三十代前半かどうかといった人々であった。
「これは――――?」
「――――いらっしゃいましたか」
お経を中央で読み上げていた人物が、音もなく立ち上がる。それはこの寺の住職だった。
「無事にここへ辿り着いたということは、文枝殿はこの世を去られたのですね?」
「そんなことは、どうでもいいです。まさか、御住職。こうなることを見越して?」
継司は集められた若者たちを見渡して問い質す。
住職は静かに顔を縦に振った。
「えぇ、文枝殿の呪いは我々、僧侶を含むこの地に住む人々を蝕んでいました。それこそ、変な動きをすれば、彼女にすぐばれるくらいには」
「おらたちを囮に――――という感じでもないんだな」
丑式が戸惑った表情を隠せずにいると、広之の思念が勇輝たちの頭の中に流れ込んで来た。
『この寺の御住職は、あなたと同じ立場ですよ。今回の事件のもう一人の依頼人です』
「なっ!?」
驚きで継司が目を見開く。
「村長として、継司殿の手前、仕方なく協力を要請した文枝殿が第一の依頼人。その仲介ではあったが、実質の依頼人なのは継司殿。その裏で秘密裏に広之殿と連絡を取っていたのは――――拙僧でございます」
顔に刻まれた皺を震わせ、住職は頷いた。
「そして、晴久殿が死ぬ原因を作ったのも、他でもない拙僧であります」
そう告げた住職は、深々と頭を下げた。
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