除霊Ⅶ
振り返った勇輝が見たのは、裂けた部分から血が滲んで球になるように黒い球体が膨れ上がるところだった。
――――爆発する!
そう勇輝は直感した。ガンドを今から溜めて全力で放とうとも決して間に合わない。出来ることと言えば、こちらに向かって来たものを相殺することくらいだろう。
勇輝は魔眼で桜の結界の境を見て、そこから右手だけを外に出す。人差し指を向けて、いつでも放てる状態で待機する。
視界の端で、頭部だった物がドロリと溶け堕ちるのが映った。その瞬間――――!
「なにっ!?」
勇輝の想像に反して、魔眼が捉えたのは天に向かって柱のように上昇する黒い光の奔流だった。だが、それもすぐに別の光景へと早変わりする。天高く上昇した光は、急に進行方向を変えた。光は拡散することなく、一本の太い塊のままいずこかへと飛んでいく。
「あれはどこに?」
桜が疑問を口にして、数秒も経たない内に継司が息を飲んだ。
「あっちは――――寺がある方だぞ!」
その声に驚愕する間もなく、黒い光は一直線に地面に向かって突き進む。その先にあったのは、彼の言う通り、勇輝たちが少し前まで見張らしの良い高台として訪れていた寺であった。
ここにいる誰もが、足を踏み出せずにいた。どうあがいても、あの光が着弾するのは避けられないと理解できていたからだ。
そして、その予想通り、黒い光は寺のちょうど山門の辺りへと当たると、そこを起点に黒い球体が形成されていく。少しずつ後から降り注ぐ光を吸収して膨れ上がったそれは、山門とほぼ同じ大きさまで成長したかと思うと、何倍もの大きさに弾け飛んだ。
「衝撃に備えるだよ!」
丑式が寺と勇輝たちとの間に割り込み、両手を広げた。
直後、桜の展開していた結界が軋む音を立て始める。乾いた木が割れるような音が断続的に聞こえるので、勇輝が丑式の背後を覗き見てみると、細かい罅が結界全体に広がるように走り始めていた。
それを認識している間にも罅は勇輝の真上にまで到達し、さらに反対側へと向かっていく。
「丑式さん。変わって!」
咄嗟に勇輝は丑式を押しのけるようにして前に出た。自身の周囲には黄金結界と呼ばれる移動式の強力な結界が張られている。
その存在は本家である聖教国サケルラクリマの聖女をして、驚愕させるほどの稀有な存在だ。低級の魔法ならば無効化し、規模次第では中級魔法も耐えることができる防御力を誇る。
何より、その効果の源は勇輝の体内魔力ではなく、自然界に存在する魔力だ。半永久的かつ無尽蔵に供給される魔力であるが故に、多少の無茶が利くのは圧倒的に優位に立てる。
「うおっ!?」
だが、桜の結界が砕け散った瞬間、全身を叩くような暴風を正面から浴びた感覚に襲われた。結界ごと勇輝に衝撃が伝わるほどの威力。周囲の建物に被害がないところを見るに、生物に限り、その圧が感じるのだろう。肩越しに振り返った勇輝が見たのは、丑式が発生させた新たな結界越しに衝撃を耐える桜たちの姿だった。
「あ、危なかっただよ。おらの呪術式の結界だと、完全に防げなかったかもしれないだ」
彼女の言う通り、新たに展開された結界には早くも罅が入り始めていた。だが、幸いにも罅は結界のほんの一部にしか広がらず、今すぐに崩壊するようには見えない。
対して、勇輝の結界は黒い光の波動を左右に受け流し、一部は地面から吸い上げた魔力と共に上空へと巻き上げていた。
「寺の人たちは無事か?」
勇輝はまだ黒い球体が渦巻く空中を睨むようにして観察する。球体の周囲は空間自体が湾曲しているようで、木々などが不自然に波打って見えていた。
スポンジに鉄球が沈み込む様をスローモーションで見えているかのような光景に、冷や汗が背中を伝う。
――――まだ、あの場に駆け付ければ、何かできることがあるのではないか。
そう考えた矢先、勇輝の周囲の結界と同じような魔力の奔流が白い光となって、寺の敷地内から天に向かって勢いよく立ち上った。
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