除霊Ⅲ
怨霊から放たれる衝撃波に、心刀を手放した感触があった勇輝。しかし、確かに心刀は鞘の中にある。
「幻じゃない、よな?」
『当たり前だ。それより、前に集中しろ。来るぞ!』
黒い靄が壁となって押し寄せる。
丑式は重心を落として、それを耐えていた。それでも体を覆う彼女の光は明らかに激減する。
そして、その靄は勇輝にいるところにまで迫っていた。
「ちっ、俺の結界で防ぎきれるか?」
『全部は無理だろうな。あの丑式と同じで、身体強化の魔力を増やせ。体外にまで魔力を放出して障壁を展開しろ!』
心刀の言葉に従って、勇輝は体の中の魔力を勢いよく循環させる。腕をクロスし、顔を庇いながら靄の中へと突っ込むと、暴風が叩きつけられる感覚に襲われた。
歯を食いしばって、それを抜けることに成功する。だが、自身の背後にいた存在に気付いて思わず振り返った。
「桜!」
「大丈夫!」
心配の掛け声に力強く桜は答えた。そんな彼女の周囲には村人を守るように結界が展開されている。
安心した勇輝は、顔を前に向けたところで目を細めた。
「おい、さっきみたいに斬れるな?」
『任せろ。お前の眼と俺の切れ味があれば、あんなものタンポポの茎より簡単に斬れる』
心刀の返事を聞き、勇輝は丑式に叫ぶ。
「丑式さん。目晦ましをお願いできますか!?」
「何か手があるんだな? 任せるだよ!」
自信満々に叫び返した丑式は、脇構えに金棒を構えると、力強く一歩踏み込んでそれを上段から振り降ろした。怨霊との距離を考えると、明らかに届かない。
しかし、丑式はそんなことに構わず、金棒を地面に叩きつける。勇輝のいる所まで軽い揺れが届くと、丑式から怨霊の目の前まで地割れが起こった。
「はっ、霊にナった私には、地面が割ㇾてモ何も問題は――――」
「そんなこと言われなくてもわかってるんだな!」
次の瞬間、割れ目が赤く光ったかと思うと、勢いよく炎が噴き出した。足から頭の先までを覆い尽くす火。暗い夜空を染め上げようと、紅蓮の壁が出現していた。
慌てて、怨霊が両手を振り払うが、その程度で火が消えるはずなどない。目晦ましどころか、そのまま怨霊を燃やし尽くしかねないほどの勢いに、勇輝は顔を引き攣らせながらも接近する。
暴れる腕と地面の間を潜り抜け、心刀を振るい、後ろへ駆け抜けた。そのままの勢いで背後の長屋の壁に到達すると、それを足場に空中へと跳びあがる。
「アァアああ゛あ゛ぁ――――!」
悲鳴を上げ続ける怨霊の腕が、裏拳のように勇輝へと振るわれる。
「――――降魔一刀・七魄断ち!」
そこに継司の攻撃が炸裂する。肘に攻撃が当たると、勇輝の頭上を斬り飛ばされた前腕が回転しながら飛んでいく。がら空きになった頭部に勇輝の刀が突き刺さる――――かに思えた。
「なっ――――!?」
丑式が目を丸くして、勇輝の挙動を見つめる。
明らかに攻撃を当てることができる状況にも拘わらず、勇輝の心刀は怨霊の頭の上を素通りしていった。
そんな丑式の戸惑いを前に、勇輝は着地をすると振り返りざまに怨霊の左半身へと突っ込んでいく。そして、袈裟懸けに振り下ろした攻撃は、またもや空を切った。
「……あれは、何か意味があるのか?」
「わ、わからないんだな……」
継司の当然の疑問に、丑式は答えることができない。しかし、その答えは怨霊自身が示してくれた。
「な、ぜ――――!? カラダが維ジ、でき――――なイ!?」
「そりゃそうだろ。自分の姿を維持するための村人との繋がりが途切れたんだ。俺たちの相手をしている余裕があるかな?」
「ば、バカなっ!? そんなものをどうヤって斬っタ――――!?」
信じられないと叫ぶ怨霊だが、姿は勿論、話す言葉も出現した時に逆戻りし始めている。それは本人が一番自覚があるのだろう。村人との繋がりを取り戻そうとするかのように、桜の方へと左腕を伸ばした。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




