除霊Ⅱ
折角の好機に、驚きながらも勇輝と丑式が踏み込んでいく。わずかに遅れて継司も勇輝たちを追って、怨霊へと肉薄する。
「ア、ガガ……」
怨霊は顎をがくがくと震わせながらも、勇輝たちの方へと顔を向ける。やがて、心刀の効果が切れたのか、縄を解かれたように怨霊の腕が広がった。
「降魔一刀――――七魄断ち!」
再び、継司が斬撃を放つ。それに対して、怨霊は即座に腕を交差して防御の姿勢に回った。そんな両腕がざっくりと斬り裂かれ、汚い悲鳴と共に動きが止まる。
「無駄だ。どこに当たろうとも、必ず動きを止める。自分の体以外で防ぐか、身を躱すかでしか逃れる方法はない。――――だから、いい加減、さっさと死ねっつってんだよ! この死にぞこないが!」
そう吼えると勇輝たちを追い越して、怨霊の垂れ下がった腕へと接近。右手首を斬り落として、背後へと抜ける。さらにそこへ、勇輝と丑式が追撃を加えるべく踏み込んだ。
「継司殿の、言う通りなんだ――――なっ!」
全力で振り抜いた炎を纏う金棒。それは怨霊の左膝を捉え、半分以上を抉り飛ばした。
「おっ、さっきよりも攻撃が通るようになっただな。これも、刀の能力だか?」
「さて、亡霊相手に苦戦したことなどないんで、どうなのかわからねえな!」
まだ体を動かせずにいる怨霊の足を斬りながら、継司は吐き捨てるように告げた。よほど鬱憤が溜まっていたのか、怒髪天を衝かんとばかりの形相で怨霊を罵りながら攻撃を続ける。
そんな中、勇輝は怨霊の体に攻撃を加えつつも、あらぬ方向に刀を振り、空ぶっていた。
「ど、どうしただか? まさか、幻覚でも見えてるだか?」
「いえ、大丈夫ですよ。こいつを弱体化させるために必要なことをしているまでです」
そう宣言した勇輝の刀は、膝をついた怨霊の脇腹を裂いた後、二度空中を薙いだ。
「こ、んな、トコロで、死ねるか――――!」
その時、怨霊の動きが戻ると同時に、突き飛ばされるような衝撃が三人を襲った。怨霊の体から放たれた気の奔流によって、せっかく詰めた距離を十メートルほど開けられてしまう。
「まだ、こんな力が!?」
「事ココに至っては仕方ナシ。あんたら全員を、確実に仕留めてヤル!」
怨霊が宣言すると、またも欠損箇所が復元してしまう。そればかりか、腕を掲げると、その頭上に黒い球体が出現した。最初は人間の拳にも満たない大きさだったが、十秒もしない内にバスケットボールくらいになってしまう。
「な、おかしいだ。急に村を覆ってた結界が――――壊れた!?」
呪詛返しの余波で壊れてしまった村の結界は、丑式が新しく貼り直していたはずだった。
しかし、怨霊が手を挙げた瞬間、それらが消えてしまったと丑式は言う。
「ふふふ、当たり前ダ。誰ガその杭を用意したと思っテいる。誰がそこに術を刻んだと思っテいる! 術を乗っ取るマデハ、流石と褒めてやるがナ。元々は、私のものだ!」
「マズいんだな。このまま村に外の魔物が流れ込んだら、それも相手にしなきゃいけないだよ」
午式と厘が対応に向かっているが、いくら二人が優秀であったとしても、村の全周をくまなく見張り、防衛できるわけではない。丑式の目に焦りの色が浮かんでいた。
丑式が視線を動かすと、すぐに二人の姿は見つかったが、膝を着く二人の手から刀が消えていた。
「なっ!?」
「脅威とナル得物ハ排除するに限る。ここまで上手くイクとは思わなカッタな」
満足そうに頷く怨霊。
慌てて、勇輝は辺りを見回すが、心刀の姿はどこにも見当たらない。対して、継司の刀は近くの民家の壁に突き刺さっており、戦闘復帰までに多少は時間がかかるだろう。
「(おい!? どこにいった!?)」
慌てて心の中で叫ぶ勇輝だったが、その声は意外にも自らの腰から聞こえて来た。
『ここだ、ここ』
そこには鞘に収まったままの心刀が、平然と居座っていた。
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