除霊Ⅰ
地面を裂く鋭い爪に伸縮自在の腕は間合いを測ることを許さず、勇輝たちを懐まで潜り込ませない。
勇輝と丑式がジリジリと距離を詰めながら、飛び出すタイミングを見計らい、桜の結界や魔法が発動したところで加速する。
当然、それは怨霊もわかっているようで、交代しながら横薙ぎの一撃を繰り出した。
「させないだよ!」
金棒で爪を殴り飛ばすと同時に炎で焼く。黒い爪は形が保てなくなり、氷のように解けて地面に落ちる前には霧散してしまった。
片腕を封じた隙に勇輝が前へと進み出る。そこに襲い来るはもう一方の手。迫る四本の爪を勇輝は、足を止めて真正面に見据える。上段に振り上げた刀を地面スレスレにまで降ろすと、いとも容易く爪を両断した。
「小癪なっ!」
前へと一歩踏み出そうとした勇輝を、怨霊は裏拳で牽制する。
しかし、その中途半端な一撃を半歩下がることで避け、刀をそのコース上に置くだけで手の甲が切れた。距離をじわりじわりと詰め始めたことに、怨霊は身の危険を感じたのだろう。一歩下がろうとしたところで、体が動かなくなる。
「い、つのマに!?」
桜の放った札が空中に浮いていた。結界を作り出したそれは、怨霊にとって効果は絶大。せっかく確保した間合いを勇輝たちが肉薄する。
脛を刀が切り裂き、金棒が砕いた。怨霊は堪らずに膝を折りかけるが、何とかして仁王立ちを維持する。
「よくも私に逆らっタな――――!?」
顔を上げた怨霊の前に迫る火球。避ける暇などあるはずがなく、顔面が炎に包まれ、黒煙が覆う。
ファンメル王国における火属性の初級汎用魔法。それによって生まれた黒煙の背後から、さらに十数発の火球が降り注いだ。
盾を持っていない怨霊に全身を守る術など無く、上半身と下半身のどちらかを守れば、もう片方がガラ空きになる。
「――――見えた!」
勇輝は一際大きな声を挙げると、大きく一歩前に踏み出して刀を振るう。
しかし、その切っ先は何に触れることもなく、空を切った。
「はっ、節穴にモ程がある! 頭ごと吹き飛ばしてくれるわ!」
再生した爪を今度は上から叩きつけるように振り被る。その手首に白銀の一閃が瞬いた。
「ぐっ!?」
「失礼、遅くなりました」
一拍遅れて、継司が地面へと着地する。それと同時に、怨霊の手が霧散しながら地面へと落ちた。
「式神や陰陽師の娘ならわかるが、何故、お前たちの刀まで私を傷つけられる!?」
「……この、よく話す亡霊は?」
怒り狂う怨霊を指差して、継司は勇輝に問いかける。
「村長の文枝さんが化けたものです。もう人ではないので、容赦なく斬り捨てるほかありません」
「ほう、それは良いことを聞いた。いい加減、鬱憤が溜まってたんでな。全力で切り伏せるとしよう」
刀を肩に担いだ継司が、首を鳴らして怨霊を睨みつける。それを正面から見下ろして、怨霊は叫んだ。
「先程から、調子に乗りおって、この下等生物ドモが!」
その声と同時に空気が今までにないほど震える。
勇輝の魔眼には、真っ黒な壁が押し寄せる光景が見えていた。
「(これは呪いの――――!? 結界や耐性がある俺たちはともかく、継司さんが受けるのはマズイ!)」
せめて、継司の前に立って壁になろうとしたところで、彼が左手を出して前に出た。
「――――起きろ、『斬魄貞永』。久々の出番だ」
彼の言葉が紡がれると同時に、その刀身が白銀に輝く。
「なっ――――!?」
「降魔一刀・七魄断ち!」
何の踏み込みも無しに、継司はその場で刀を振り下ろす。空を裂く風切り音が鳴り響くと、目前に迫っていた黒い壁が紙のように切り裂かれ霧散した。
そればかりではない。明らかに刀身が届いていない怨霊の左肩から右の脇腹までが、ぱっくりと斬り裂かれていた。
「あ、ア゛あ゛ああ!?」
叫び声を挙げた怨霊の動きが唐突に止まる。それを見た継司は勇輝たちに告げた。
「俺の刀には亡霊特化型の能力がある。攻撃が当たってから何秒か、ああやって動きを止められる。そこを上手く突いてくれ」
「あれが、心刀の能力――――!?」
勇輝が見る心刀の能力は、炎を出す刀や飛ぶ斬撃に続いて、これが三振り目であった。その能力に思わず、目を見開いて継司の持つ刀を見つめる。
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