変生Ⅶ
黒い色から元の文恵の肌の色には戻らないが、形は完全に元に戻っている。
「あぁ、ナルほど、足りない部分ハ、こうやって補ってやればいいのか。ふふふ、これでは、まるで不老不死の体ダ!」
『いや、それはどうだろうな? 自分の存在が別の物に置き換わって、無事でいられるか。俺は甚だ疑問ではあるが――――言ったところで聞く耳はもたんだろうな』
丑式が両脇に一人ずつ抱え、両手でさらに一人ずつ引き摺り、計四人を運んでいく。その姿を肩越しに見ながら、勇輝は心刀に質問する。
「それで? あいつを倒すいい方法は?」
『簡単だ。肉体を失ったアレは、自分の姿を維持するのに魔力や気を周囲から吸い取る必要がある。呪いになってもあの姿を維持しているあたり、何かありそうだがな』
漆黒の爪を伸ばし、怨霊が右腕を振りかぶる。既に魔力を装填し終わっていた勇輝は、その手に向けてガンドを放った。
「無駄だ、無駄!」
一瞬にして形を失った右腕だが、次の瞬間には再生し、勇輝の背後にいる村人ごと振り抜こうと迫る。
「させないっ!」
そんな中、一枚の札が勇輝と爪の間に割り込んだ。爪が接触する寸前に白い光が瞬き、それを弾き返す。
上半身が仰け反るほどの威力で結界に弾かれた怨霊は、苦虫をかみつぶしたような顔で勇輝の遥か後ろを睨みつけた。
「今度は陰陽師ノ娘か。忌々シい!」
「勇輝さん! 私も加勢するよ」
そこにはいつの間に戻ったのか、本体の桜が杖と札を手に息を切らせて立っていた。それでも詠唱はしっかりと行えるようで、怨霊に向けて火球を複数放つ。
「小賢しい!」
自らに迫るそれらを怨霊は、左手の裏拳一発で掻き消してしまう。黒煙が地面にばら撒かれた松明に照らされ、たなびいていく。
鬱陶しそうに怨霊は眉を顰めると、もう一度、手を勢いよく振り抜いた。猛烈な風が吹いたかと思えば、黒煙がそれと共に吹き飛んでしまう。
「だが、今更、一人増えたところで――――」
「一人じゃないですよ?」
怨霊が何とか笑みを取り戻そうとしたところで、厘の声が闇夜を切り裂いた。
「とりあえず、村人は移動させました。桜さん、目晦ましをありがとうございます」
丑式が一生懸命運んだ四人の横に、勇輝の背後で転がっていた村人全員が移動していた。西園寺家の家臣にして隠密の鍛錬を積んでいるとはいえ、信じられない速度での救出作業に、勇輝は勿論、怨霊ですらも目を丸くした。
「別に驚くことではないですよ。あの洞窟で恐ろしい目に遭った分、逃げ足は負ける気がしません」
「うーん。ただ運び方が雑過ぎるんだな。何人か、血だらけになってる気がするだよ」
「それは自業自得なので、反省するための怪我ということにしておきましょう」
「見た目と違って、強かなんだな」
丑式は苦笑いしながらも、村人を下ろして空いた手に再び金棒を出現させる。
「午式は結界を破ろうとしている狼を駆除しに向かっているだ。多分、それに釣られて来ている魔物も一緒に。怨霊への対抗手段をもっていないのならば、そちらの援護を頼みたいんだな」
「わかりました。私はそちらの援護に向かいます」
そう答えた厘は一足飛びで長屋の上に飛び乗ると、あっという間に姿を消してしまう。
「さて、とりあえずは対処法がわかるまで時間稼ぎだよ。村人を殺すなんてのは、最終手段でもやりたくないだ」
「ふ、ふふ、ハハハハハ! 無駄だ。村の人間は共犯の呪術師として私と繋がっている。それを断ち切らぬ限り負けはない! 非情になり切れないあんたたちの良心が、あんたたち自身を殺すことになるのさ!」
絶対の自信を露にして、怨霊は天高く笑い声を響かせた。
しかし、それを聞いた心刀が同じくらい喜色の籠った声で、勇輝に語り掛ける。
『おい、今の聞いたか? 村人との繋がりがあるんだと。お前の眼に映ってるんじゃないのか?』
「――――あぁ、今の言葉で認識できるようになった。語るに落ちるってのは、こういうことを言うんだな」
勇輝もまた笑みを浮かべて、魔眼を怨霊の周囲に向けた。
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