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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第26巻 薄明の呪いに終止符を

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変生Ⅱ

 もう一体のチビ桜が侵入した部屋には、呪術を扱うための道具やその方法を記した本が所狭しと並んでいた。少なくとも、この村で過ごしているだけでは手に入らないような本ばかりだ。


「晴久さんが飛脚を辞めた後、重要なものを運ぶ役割を担うようになったと聞きました。まさかとは思いますけど、その中にこの呪術関連の本も?」

「あぁ、そうさね。御禁制の品にはギリギリならない物から、見つかればただじゃ済まない物まで時間をかけて集めたよ。それは私の親も、そのまた親も同じこと」

「でも、それはこの村を守るため。あなたのように私利私欲のために使う為じゃない」


 刀印を結んだチビ桜は、早九字を切り、文枝へと放つ。


「舐めるなよ、小娘っ!」


 呪文の詠唱も無ければ、魔道具の補助も無い純粋な気の放出で桜の放った浄化の魔法を消し飛ばしてしまう。ビリビリと空気が揺れ、桜と文枝の間で土埃が舞い上がった。

 チビ桜は杖も無ければお札も無い。発動可能なのは初級魔法程度の基礎的な術式のみである。文枝を無力化するには、手段が圧倒的にが不足していた。


「まだまだ、やってみたい呪術はあると言ったのを覚えているかい?」


 文枝は筒を失った左手に金槌を持ち替え、黒い手袋を右手だけに装着する。


「あんたらのせいで、幸か不幸か、村のあちこちにあった呪術の基盤も消えてしまった。だからこそ、ここから力を届かせることも可能なのさ」


 手袋がわずかに黄色の光を帯び、その指先から一瞬だけ細い光が地面へと垂れた――――ように桜は見えた。

 しかし、それ以上、何かが起こる様子はない。ただ文枝が片手を前に突き出したまま止まっているだけだ。訝し気に文枝の様子を窺うチビ桜だったが、遠くから狼の遠吠えが響き渡る。


「――――狼を、呼んだ?」

「あぁ、そうさ。呪いで人を殺せるんだ。獣の一匹や二匹、自在に動かせないなんてことはないだろう? 『共通の特徴をもっているものに効果を及ぼす』のは、呪術師の基本中の基本さ」


 狼が遠吠えをするのにはいくつか理由がある。

 争いを避けるために他の群れに対して警告をする時、自分の群れの仲間に居場所を知らせる時などがそれにあたる。その中でも特にイメージが強いのは「狩りをする時」だろう。


「まさか、ここにいる村人も巻き込むつもり!?」

「ふん、私はどうせ逃げるだけの力はない。それなら、試せることはやれるだけやってみたい。それだけのことだ」 


 既に狼を動かしたという結果を得られたからか。文枝は手袋をすぐに投げ捨てて懐から釘を取り出す。

 警戒する桜だが、文枝の手には肝心の釘を刺すべき触媒が存在していない。藁人形はおろか、村人たちも使っていた筒すら持たずに左右の手にあるものを入れ替える。


「さて、そう時間も無いからね。机上の空論が現実に打ち克つかどうか。八百万の神々も妖魔も御照覧あれってね!」


 次の瞬間、文枝は自らの胸に釘を打ち込んだ。


「な、にを――――」


 チビ桜越しに本体の桜が息を飲む。自らの命を絶つことで罪を償うような素振りは一切なかった。事実、文枝は机上の空論という言葉を口にしたように、何かしらの呪術を使ったようにしか見えない。


「(自分を藁人形の代わりに? そうだとしても、その矛先は誰にも向くはずがない。だって、他の誰よりもまず『自分自身』という存在が、呪う対象に選ばれてしまうから――――)」


 だから、自分自身に丑の刻参りの触媒にするものなどいるはずがない。

 では、何の為にそんな無謀な行為に出たのか。それを桜は考えた結果、恐ろしい考えに辿り着く。


「生きることに執着していた人が、逃げる力がないから諦めて最後の呪術をするために命を落とすなんてことをするはずがない!」


 生き残るために自ら人の姿を捨てる。そのような悍ましい考えを迷わず実行した文枝に桜は恐怖した。

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