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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第4巻 消えた焔は地の底に

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紅の輝きは何物にも染まらずⅧ

 錬金術界の秘密に唖然とするユーキたちを尻目に、ロジャーは笑いながらエドワードへと向き直る。


「まぁ、弟子よ。お主もいろいろと手を尽くしてはいたようだが、今回ばかりは運が悪かったということだ。もう一人のお師匠さんを追うのならば、もっと精進せねばな」

「……はい。励ましの御言葉ありがとうございます」


 フランの首元のルビーへとつながる黒い茨を見ながら、ロジャーは慰めの言葉を呟く。意気消沈したエドワードは、言葉こそ返すものの明らかに不服そうな表情だった。


「さて、若者諸君。君たちも覚えておくといい、『失敗しても立ち止まらなければ、成功に辿り着く』。私の座右の銘だ。世の中、成功ばかりで生きていけるほど甘くはないものだよ」


 そういうと満足そうにロジャーはエドワードの肩を叩いて、元来た道へと去っていく。姿が消え去ると、先ほどまで横たわっていたフランが台の上に腰かけていた。魔力が大量に注ぎ込まれているおかげか、意識もだいぶ戻ってきているらしい。

 驚くべきことにユーキの魔眼ではルビーの輝きがほとんど失われていない。ドラゴンの炎には大量の魔力が含まれていたらしい。当分の間は、彼女が倒れることもなさそうだ。

 そうこうしている内に、フランは台から飛び降りて、しっかりと地面へと降り立った。


「フラン。もう大丈夫なのか?」

「お腹は減っていますけど、歩けないほどじゃないです。さっきまで頭もくらくらしていましたが、すぐに良くなりました」


 そう言って、首からぶら下がったネックレスもどきを揺らして見せる。黒い茨の棘はぱっと見、首に刺さって痛そうに見えたが、肌に食い込んでいる様子は見えなかった。


「よし、こんな辛気臭い場所なんておさらばして、外のお日様でも浴びようぜ」

「マリー、温度だけならここの方が過ごしやすい。快適」

「吸血鬼に日光浴びようぜって、普通に聞いたら喧嘩売ってるようにしか聞こえないけどな」

「いいんだよ。とりあえず、リリアンさんはこっから出たとこで待てばいいだろう?」


 そう言って、マリーはアイリスの手を引っ張って、エドワードの横をすり抜けていく。その際に、目の下を人差し指で下ろして煽っていくことも忘れないあたり、マリーらしいと言えようか。


「その……いろいろとありましたが、ありがとうございました」

「構わん。そちらの手が上回り、こちらが下手を打っただけのこと。さっさと出ていきたまえ。私は陛下に、そこの少女の安全性について説明をせねばならん」


 サクラが礼をいうと、エドワードは眉一つ動かさずに言う。それでもサクラとユーキは頭を下げる。フランも慌てて下げると、エドワードは皮肉たっぷりに言い放った。


「ふん。こちらもいい研究材料として髪や血液を採取できた。また、倒れることがあったら来るがいい。その時は、腕の一本でも切り落として、再生能力がどれ程のものか確かめてくれる」

「ひぃっ!?」


 グロテスクな解剖宣言をされたフランは、自分が切り刻まれる想像をしたのか、悲鳴を上げてユーキの後ろへと隠れた。


「――――冗談だ」

「いや、あなたが言うと笑えませんから」


 思わずユーキが突っ込むがエドワードはそれ以上、話す気はないらしく、体を横にして通路への道を譲る。


「し、失礼しました」


 ユーキたちが脇を通り抜けて通路への扉を潜っていく。直立不動で動かないエドワードに、扉へと手をかけたままフランが振り返って声をかけた。


「あの、ありがとうございました」

「何も治療には貢献できていない。その言葉は少年たちに言うと良い」

「でも、あなたはずっと呼びかけていてくれました。『助けてやるから、それまで自分を信じろ。生きてさえいれば、何とでもしてやる』って」

「………………」

「だから、ありがとうございます。ユーキさんたちが来るまで持ちこたえられたのは、あなたのおかげだと思うから」

「知らんな。何のことだか、さっぱりだ」


 目を合わせず、ぶっきらぼうに呟くエドワードをフランは笑った。それこそ、面白くて仕方ないという風に。


「冗談も苦手ですけど、嘘も苦手なんですね」

「――――放っておけ。錬金術師には真理と技術があれば、それでいい」


 自嘲気味に笑うエドワードを見ていたフランの後ろで、ユーキが呼ぶ声が響く。


「では、行きますね」

「二度と来るな。君のような失礼な小娘などに顔を合わせるなんぞ虫唾が奔る」


 声を張り上げたエドワードにフランは微笑むと扉を潜り走っていった。ゆっくりと扉が軋む音をたてて閉じていく。フランがユーキたちへ追い付くと同時に扉は完全に閉じた。





 見送った彼の脳裏にはフランの笑顔と共に、首から下がる黒い茨と薔薇の蕾を思わせるルビーが眩しく輝いていた。その光景があまりにも眩しすぎて、思わず目を閉じてしまう。


「ふん。何が真理と技術だ。反吐が出る」


 そう言ってエドワードはポケットから手を出す。

 手の中には無数の小さなルビーの原石が、固まりきっていない血と共に握られていた。

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